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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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パシリと文学部と冷静男-1

 放課後。
 春も順調に過ぎ、一学期最後のテストが終われば陽射しも充分に夏を感じさせるようなものとなる。
 日に日に夏が色濃くなっていくそんな空の下、学校は生徒の生み出す喧騒に包まれていた。
 グラウンド、体育館、教室とさまざまな場所で人が動いている。
 それは屋上も例外ではなく、そこにはいくつかの人影があった。
 日向で夏の陽射しを全身に受けながら、フェンスに背を預けて座っている少年がふたり。その近く、出入り口が作る日影に座るのは女子がふたり。
 そしてその四人から離れてグラウンドを見下ろす一人で、合計五人だ。
「……暑い。焼ける。何だこれは新手のイジメかそうなのか」
 唐突に、無愛想な少年がつぶやいた。つまらなそうな表情を浮かべた顔に汗が一筋流れる。
 それに反応して日影に座る少女ふたりが少年の方を見た。小柄で活発そうな少女と、どこか落ち着いた雰囲気を持つ長い黒髪の少女だ。
「それは仕方ないじゃないですか、日影がここしかないのですから。ジャンケンに負けたご自分の手を存分に恨んでみては?」
 長い黒髪の少女が可笑しそうに言うと、隣に座る少女も、
「そうそう、完全に公平だったもんね。だから負け犬の遠吠えなんて聞いてあげないよー」
「……遠矢が言うと事実でも腹が立つし、つばさが言うと正しいことでもムカつくのはなぜだろうな」
 ほとんど表情を変えずつぶやく少年に、隣の大柄な男子が口を挟む。
「まあそう言うなって。何だかんだ言って栗花落(つゆき)もけっこう楽しいだろ?」
「それは無い。断じてありえない。と言うか、長谷部の奇行を止めなかったアンタにすべての責任がある気がするんだが」
「いやいやいや、いきなり無茶言うなぁお前。俺ひとりの責任か?」
「当然のことを二度も言うつもりはない」
 栗花落は眉ひとつ動かさずに淡々と言う。もう慣れたものだが、それでも五十嵐はわざとらしくため息を吐いた。
「……何だかなぁ。どうも先達への敬いってのが足りなくないか?」
「お前らの普段の行いを見れば妥当だろ。むしろ過剰かもしれないくらいだ。つばさと遠矢もそう思ってるはずだしな。そうだろ」
「え、わ、私? 言えないよそんなのっ。だ、だって本当のこと言っちゃったら先輩が傷ついちゃうかもだしっ。そういうのってダメだよね!?」
 解りやすく慌てるつばさの言葉と態度に栗花落は満足の頷きひとつ。
「だ、そうだ。解りやすい回答だろ」
「……もう何というか、大宅さんはけっこう素晴らしいですよね色々と」
 遠矢が驚異的なものを見るような目でつばさを見たが、すぐに何事もなかったかのように向き直り、
「まあ実際に同意できますけどね。先輩らしいことをしてもらった記憶なんて無いですし」
「迷惑かけられたり頭痛の種になったりは何度もあるけどな」
「……マジか。今年の一年は怖いなぁ。よし、明日から頑張ろう俺。ファイトだ俺、負けるな自分」
 遠い目でしみじみとつぶやきだした五十嵐を皆は無視した。
「とにかく、部内で『五十嵐』と『長谷部のストッパー』は同義語だからな。自分の役割はしっかりとこなせ」
「は、俺が? それは冗談きついだろ。休み明けの登校ぐらいきついな」
「それは確かにきついが今は関係ないだろ」
「いやまあそうだが、だってよお、――あいつを止められるヤツなんていねぇだろ?」
 五十嵐は最後だけやけにはっきり言いきり、栗花落も反論はせずに眉を寄せてため息。遠矢とつばさも頷いている。
 皆の意見はひとつ。
 確かに無理だ、と。
 いやな沈黙が辺りを支配し始めたが、場違いに明るい声がそれをかき消す。
「ふふふふふ、下々の者がせかせかと動き回るのを見下ろすのも、たまには良いものだ。思わず笑みがこぼれてしまうよ。確証もなく素晴らしいね!」
 ひとりだけ輪から離れて屋上からの景色を眺めていた長谷部だ。


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