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淫魔戦記 未緒&直人
【ファンタジー 官能小説】

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淫魔戦記 未緒&直人 3-5

朝食を済ませた二人はそれから、離れの中で何もしないゆったりした時間を楽しんでいた。
−その平穏は、神保家のどこかからかかってきた電話で破られる。
電話には、直人が出た。
「何?ああ……うん。そうか」
しばらくやりとりしてから直人は受話器を置き、様子を伺っていた未緒の方を振り向いた。
「ちょっと付き合って欲しい所ができたんだ。一緒に来てくれないかな?」
直人の要請に、未緒はうなずく。
「それは構わないけれど……どこへ?
「そんなに離れた所じゃない。神保の第二道場だ」
「第二道場?」
「修行の現場を一般人に見られたら危険だから、ここから少し離れた所に結界を張って目立たないようにして……うちの門下生の修行用に建ててあるんだ。今までは言う必要もないと思ってたから教えなかったし、知らなかったろ?」


第二道場は、車を数分走らせた場所にあった。
大きさは屋敷と同等かむしろ広いくらいで、目隠しと防音を兼ねて塀の内にはずらりと木が植えられている。
送ってきた車を帰し、二人はむやみに大きい正門脇の通用口から中に入った。
直人いわく『正門は大きくて開けるのに手間がかかるから、通用口から入った方がよほど手っ取り早い』そうである。
飛び石を踏みながら歩いていくと、道場が見えてきた。
中からは、掛け声以外のものが聞こえてくる。
何かが轟音と共に飛んで行き、どこかから発生した業火や雷氷が飛び交っているような。
「……これって、もしかして……?」
「一般人に見られちゃまずいだろ?」
含みのある言い方に、未緒は苦笑いを返した。
「ああ、用があるのは道場じゃない。こっち」
道場に入ろうとした未緒を、直人が呼ぶ。
道場の外を回って、二人は近くにある茶室へと足を運んだ。
小さな出入口から、身をかがめて中へ入る。
そこには、男性が一人いた。
年の頃は、五十半ばを過ぎているだろうか。
目尻の皺と後ろに撫で付けた白髪とが、威厳をかもし出している。
「おお、ご当主」
直人に気が付いたのか、男性がこちらを向いて一礼する。
瞳を、固く閉じたまま。
もしかして、目が……?
そう問いたかったが、そんな事を聞くのは礼儀に反する。
「ご当主以外に、何やらかぐわしい香りがいたしますな」
直人は靴を脱いで茶室に上がると、未緒を手招きした。
「分かるか?」
それに応じて、未緒も茶室に上がる。
「目が普通に見えない代わりに、他の感覚は鋭敏ですから」
男性はそう言い、微笑んだ。
「では、少し心を落ち着けるためにまずは一服点てましょう」
「一服って……」
お茶の心得などまるでない未緒は、助けを求めて直人を見た。
「大丈夫。お菓子食べて茶碗を左に二回回してから三口半くらいでお茶飲み干すだけだよ」
「そんな事言ったって……!」
「何も堅くなる必要はありませんよ。茶と菓子を飲んで食べればそれで終わりです」
「ほんとに大丈夫だって。僕と同じ事をすればいいんだから」
二人から口々に言われ、未緒は渋々納得する。
ちなみにお菓子を食べるのに必要な懐紙は、男性がくれた。
−男性がお茶を点て始めると、直人がようやく彼を紹介してくれた。
「彼は中垣。僕のよきアドバイザーだ。家政は榊にお任せだけれど、指導管理能力と霊力に優れる中垣は、この第二道場を束ねる師範として後進の育成に当たっている」
直人に前に、中垣が薄茶を出した。
「どうぞ」
「お点前、頂戴いたします」
目の前に出されたお茶を飲み干し、直人は茶碗を中垣に返す。
「で、中垣……君に、未緒はどう見える?」
「見える……?」
目が見えないからまぶたを閉じているのだとばかり思っていた未緒は、ぎょっとして直人を見る。
「中垣の目は、普通ではないものを見過ぎるんだ。だから普段はまぶたを閉じて、余計なものを見ないようにしてる」
脇からの直人の説明に、未緒は納得した。
未緒の分のお茶を点てながら、中垣は言う。
「体中から満ち溢れる、強い生命力を感じます。ご当主が選ばれた女性だけあって、素晴らしい体をしていらっしゃる。何が目的かは知りませんが、これほどの体であればたいていの事は可能でしょう」
中垣は茶筅を置き、未緒の前にお茶を出した。
「では、どうぞ」
内心ドキドキしながら、未緒は直人の作法を見様見真似で飲み干す。
茶碗を返すと、中垣は簡単に後片付けを済ませた。


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