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■LOVE PHANTOM ■
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■LOVE PHANTOM■五章■-3

「化け物がぁ!」
男が叫ぶ。
「お前の顔ほどじゃないがな。」
叶が笑う。
男は、短刀を振り回す手を止め、一歩、後ろにのけ反った。叶は、それを追おうとはせずに、その場に立っている。
叶を睨みながら、男は言った。
「次は避けるなよ。避けたら・・・。」
男の視線が、叶から、後ろにいる靜里に移る。
「そのままお前を通り越し、女を殺す。」
一瞬、靜里の肩が震えた。
「どうする?避けるか?」
「いや、避けない。刺したければ俺を刺せばいい。」
煥発入れず叶は言った。その言葉の中に、どれだけの自信があるのかは分からない、が、叶の顔には、確かにそれを証明する表情があった。それを目の当たりにした男は、不満気に鼻を鳴らし、
「どこまでも嫌な男だ。」
と苦笑した。
「来いよ。それとも怖じけずいたか?」
叶は、そんな男の姿を冷めた瞳に映しながら、まるで短刀に刺される事を望んでいるような口調で、彼の神経をさかなでる。
男はギラリとした目で叶を映し、
「・・・・動くなよ。きさま。」
静かに、低い声で、言った。
「分かってる。」
叶はそれに答え、頷く。その時、叶は、気づいていた。男は、さっきまでの本能だけで行動する、野獣とは全く違うと。その証拠に、呼吸は調い、表情もさほど険しくはなく、涼しげに見える。そして何よりそれを決定づけているのは、男の低い声である。さっきまでの男の声と言ったら、動物の断末魔のような、そんな声だった。
だが、今は違う。男は冷静さを取り戻した。そして、それによって叶への対応の仕方も的確になってくる。
男は静かに歩きだした。方向はもちろん、叶である。
「か、叶!逃げてよ 。」
震える声で靜里が言う。
しかし、叶は彼女を背に、振り返ることもなく、その場に立ったまま動かない。
「叶!」
靜里の声がより大きくなる。
それでも叶に変化はない。後ろからでは、彼がどんな表情をしているのかも分からず、靜里は不安になった。もしかして自分を守るために、そのまま刺されてしまうのではないか、という予感が、こめかみのあたりを、電気が走るように突き抜けた。
男の足がようやく止まった。叶の目の前である。叶は、ゆっくりと男に視線を落とし、手元にある短刀を見た。怪しく光る刃に叶が映っている。
「よく逃げなかったな。」
男は笑った。
そして、素早く短刀を持っているほうの手を後ろに引き、一瞬、強く握ると、叶に向かって突き出した。すると、確かな手応えが短刀をつたい、男の体にも感じられ、男は歓喜の声を上げた。
「どうだ!どうだ?痛いだろう?」
男のすさまじい笑い声に、靜里の叫び声がかき消される。
男はそっと短刀から手を引いた。短刀は、叶の右胸に、根元まで刺さっている。
真っ赤な液体が、大粒の涙のように、滴となって、芝生を濡らしてゆく。
 叶は自分に埋まっている凶器を見ながら、ふっ、と口元に笑みを浮かべた。
それを見た男は自分の目を疑った。短刀は確かに叶を射抜き、地面には真紅に染まった草が生えてくる。そして何よりも、叶を刺したときの感触が、自分の手にも鮮明に残っていた。
にもかかわらず叶は、何もなかったように平然とその場に立ち、しかもその表情は、痛みに歪む顔ではなく、自信と余裕に満ちた顔だった。


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