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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み8 〜文化祭〜-1

 十月上旬日曜日、宇月楓宅。
 楓の部屋にて、美弥はドレスの仮縫いをしていた。
 結局美弥はカクテルドレスを着る事になったのだが、シンプルなデザインなのにやたらと仮縫いの回数が多いのである。
 以前その事を指摘したら、楓はまなじりを吊り上げて怒った。
「シンプルだからこそよ!布地の傷を飾りで隠さないから、誤魔化しがきかないの!!」
 裁縫の専門知識がない美弥は、そう言われると沈黙せざるを得ない。
 
 コンコン
 
『終わりました?』
 部屋のドアをノックした春宮が、向こうから呼ばわる。
「あ〜ちょっと待って。美弥、もういいわよ」
「ん」
 楓がドレスを剥ぎ、部屋のウォークインクローゼットにしまってから、美弥は目隠しを取った。
 そう、目隠しである。
 ドレスの仮縫いをする際、楓は美弥に必ずしっかりした目隠しをして、デザインを見せないようにしているのだ。
 何のためにそんな事をするのかと、聞いた事もあったが……楓が答えをはぐらかしまくるので、回答を得るのは既に諦めている。
 美弥が服を身に着けると、楓は春宮を招き入れた。
 デートを兼ねて卒業製作の手伝いをしている春宮は、部屋に入るとソーイングセットを取り上げる。
「美弥。その補整下着、着心地どう?」
 楓の問いに、美弥は感想を述べた。
「うん。きつい補整なのに結構楽だし、いいんじゃないかな」
 露出度の高いドレスを美しく着こなすためには、補整下着などによるボディの作り込みが欠かせないのだが……ドレスの仕上げに奔走する楓にはさすがにそこまでは手が回せず、美弥には仕方なく既製品を着せている。
 文化祭恒例の手芸部主催生徒モデルファッションショーは実質的に校内美少女コンテストを兼任しており、長年文化祭を盛り上げる一翼を担ってきたという事実があるために、生徒会が予算を付けてくれるからこそできた装いだ。
 ちなみに美弥は今、ビスチェと膝上丈のロングガードルを着けている。
 普段から重力に逆らってつんと上を向いている胸とお尻だが、補整下着の威力はそれをさらに上向かせていた。
 後は履き慣れないパンプスに慣れる事と、カクテルドレスに似合う化粧の問題があるが……そちらは、瀬里奈が何とかしてくれる。
 今はむやみに派手な事はしていないものの、高級なファッションも華やかな化粧も、瀬里奈の過去にはお手のものだ。
「よしよし。仮縫いは今日で最後だし、後は仕上げるだけね。当日はよろしく、美弥」
 
 
 商店街で少し遅めのランチを摂り、ついでに秋色のウインドウショッピングを楽しんでから、美弥は帰宅した。
 がちゃ、と玄関ドアを開ける。
「……何で?」
 ドアノブに手を差し出した姿勢で固まっている青年に、美弥は当惑した声を投げ付けていた。
 ダブルのスーツを着こなした龍之介は、困ったように頬を掻く。
「意外と早いお帰りで」
 騒ぎを聞き付けたのか、両親と兄が廊下へ顔を出した。
「あら、お帰りなさい」
「お帰り」
「お帰り〜」
 両親も貴之も揃って改まった服装をしているのに気付き、美弥は目を丸くする。
 一体全体、知らない間に四人で何をしていたのだろうか。
「それでは、その件はそういう事でよろしくお願いします」
 振り返った龍之介の言葉に、直惟が渋い顔をする。
「あ・な・た?」
 だが彩子が片耳を引っ張ると、慌ててにこやかな顔を取り繕った。
「美弥には、僕から説明しますから」
 呆然としている美弥の肩に腕を回した龍之介は、次の瞬間信じられない行動に出る。


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