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『 ONE-SIX club 』
【ホラー その他小説】

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『 ONE-SIX club 』-2

    ※ ※ ※
 
 
『ONE-SIX』の店内は人いきれと煙草の煙でむせ返るようだった。
 
 ゲームのある日は、どこで聞き付けるのかいつも満員になる。
 男も女も、安全な場所から、スリルと興奮の分け前を、わずかでも持ち帰ろうとする輩ばかり。
 
 この感覚は、このテーブルを前に座って初めて体感できるものだ。『死』に触れ、『死』を操ってこその快感を、手も伸ばさず、ギラギラした目でもの欲しげに見つめるだけの羊達の群れ。
 
 俺は相手を待っていた。
 
 少し遅れて現れた男は、背が高く、黒ずくめでツバの広い帽子をかぶり、大きなサングラスとマスクをしていた。
 どうやら身元を隠しておきたいらしい。負ければ臆病者と蔑まれ、この界隈を歩けなくなる。勝負の前からその用心じゃ、はなから勝負は決まってる。
 
 いつものように、相手がコインを投げる。
 青白い手が優雅に振られ、コインはテーブルの中央で静かに回り、やがて表を上にして止まった。
 
 俺が先か……。幸先がいい。
 
 銀色に輝くリボルバーを手にすると、ぞわぞわと泡立つ歓喜の波が押し寄せてくる。 
 これだ!この感覚!
 
 俺は手のひらでシリンダーを回し、こめかみに当て一気に引き金をひこうとしたその瞬間、冷たい手で心臓をわしづかみにされたような衝撃で、のけぞり、癲癇を起こした子供のように身体が固まった。
 
 俺は何を見ている?
 
 相手の男でもない。店内にいる客や、窓から見える外の景色でもない。
 
 俺の目は、シリンダーの中にある銃弾が、ハンマーの前に装填され、発射を待っているのが、ありありと見えた。 
 
 この一発を撃てば必ず死ぬという『実感』が、ギリギリと心臓をしめつけ、息もできず、どっと汗が吹き出した。
 
 スリルや興奮とは違う震えが全身をおおい、銃をこめかみから離そうとしても、手はますます銃口を頭に押しつけ、指が引き金をひこうとする。
 
 たすけて……、
 
 声にならない叫びが喉を詰まらせ、涙が頬を伝い、顎の先からしたたり落ちて、太股を濡らす。
 
 死にたくない……、
 
 気持ちとは裏腹に、指が引き金を絞りはじめる。
 
 たすけて……、
 たすけて……、兄さん!
 
 手はギリギリ握り締められ、ハンマーが落ちた。
 
 カツン……。
 
 気を失い、テーブルに突っ伏すその瞬間、黒ずくめの男が差し出した左手の小指に、金色に光る指輪を、見た気がした……。


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