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壁時計
【熟女/人妻 官能小説】

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壁時計-2

昼休みに派遣仲間でランチをすると、やはり今夜の打ち上げ会が話題になった。

「派遣社員も出席して当然でしょ、って態度が気にくわないわね」

と茉琳と同年輩の春奈がしかめ面すると、二人に比べてずっと年下の満紀が

「でも、今日はボスとお近づきになれるチャンスかも」

と目を輝かせる。

「カレさぁ、何かお馬鹿な坊ちゃん風じゃない?」

と鼻を鳴らす春奈に、茉琳が

「ハーちゃん、今日は欠席?」

と聞くと、春奈は

「まさか。契約切られたら大変だから、行くわよ」

と頬を膨らませた。

「狩野さんは?」

 ドリンク缶を手にした満紀が茉琳に尋ねる。

「うん、行く」

「ダンナさん、大丈夫?」

「え……あ、ダンナ?……うん、大丈夫」

 茉琳は、どぎまぎしながら、左手の薬指にはめている指輪を右手で触った。

「フフフ……」

 事情を知っているかのように、春奈が笑った。


 午後6時、打ち上げ会場である『ア・プリ・ドール』に茉琳たちが着いたときは、まだ人もまばらであった。茉琳は春奈や満紀とカウンターでジュースを飲んでおしゃべりしていた。そのうち、どんどん人が入ってきて、店内がだいぶ狭くなってくる。誰かが声を張り上げて何か話し出した。岡部次長が挨拶しているようだが、誰も聞いていない。途中で誰かが「乾杯、乾杯」と叫び、バラバラと「乾杯」の声がして、一段と喧噪が大きくなった。BGMの大音量も店内を響き渡り、隣の者同士で話し合うのも難しくなる。後ろからどんどん押されるのを避けて、茉琳たちはカウンターの中に入った。
 7時前、立錐の余地もなくなった店の入り口で拍手が起き、それが波紋のように広がっていく。社長が来たらしい。まもなく人垣が割れて、カウンターを挟んで茉琳の真向かいに社長が立った。赤い巻き毛に赤いそばかす顔、灰色の目をした中肉中背の男は英語で茉琳にビールを注文した。店員から受け取ったビールジョッキを茉琳が社長に渡したとき、傍の者が、茉琳が社員だと告げたらしい。それまで茉琳をこの店の店員だと思っていた社長は「ワオ!」と叫び、陽気な笑顔を浮かべて茉琳と乾杯した。名前を聞かれた茉琳が社長に「マリン」と教えると、社長は姿勢を正し、直立不動で敬礼をした。海兵隊の真似をしておどけているらしい。茉琳がやや大げさに受けた振りをすると、日本語を解しない社長は子どものように喜んで、ひとしきり「我が社の社員は海兵隊並みに勇を鼓して仕事に取り組んでいる。すばらしい」というような話をした。最後に茉琳に向かって「あなたの献身的な努力を私は最大限に評価する」と言って人垣の中を別の場所に移動していった。 

「何を評価する、って言ったの、カレ?」

と春奈が聞いてくるので、茉琳が

「何か、献身的な努力とか言ってたけど。大げさね」

と答えると、春奈は

「真面目に言ってるのか、冗談で言ってるのか、外国人て分かんないよねぇ」

と言いながらグビッとスコッチの水割りを傾けた。

「でも、何か人を惹きつけるオーラみたいなの、感じない?」

と傍らで満紀はうっとりしている。 

「そうねえ、……ちょっと、ごめんね」

 満紀の問いかけに生返事を返した茉琳はカウンターをくぐり、店の外にあるトイレに向かった。入口のドアにたどり着くのに人ごみの中をかき分けかき分けしなければならない。

 −こんなに人を集めるなら、もう少し場所を考えたらいいのに。

 と茉琳は思った。


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