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『空』という名の鎖
【同性愛♂ 官能小説】

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『空』という名の鎖-3

3 「陽依都…俺は、逃げない」
「ばかだよ…伊織は。きっと後悔する」
「ばかはおまえだよ…くそっ、長い間待たせやがって」
 うっすらと開いた唇の間から、フゥッと薄く吐き出された吐息を頬に感じるほど顔が接近する。
 堪らずギュッと眼を瞑る。
 あの時、掠めることのなかった、あんなに感じたかった陽依都の唇の温かさが、フワリと重なった。
 尾てい骨あたりがゾクッとするような感覚に、『んっ…』とあえかな声が漏れ、身体がピクッと反応した。
 すると、重なった唇の間から、熱い陽依都の舌が入ってきて、スルリと上あごを舐める。
 昔、濡れた手でコンセントを差し込んだ時に感じたような、ビリッという感じの電気が走る。
 感電したような刺激に直撃され、思わず陽依都にしがみ付いた。
 それでも陽依都が、口腔内の柔らかいい部分を執拗に攻め立てると『うんっ…ん…んっ』次々と零れる熱い吐息と痺れに、遂にスパークしてしまいそうになる。
 やっと離れた陽依都は、すっかり息の上がってしまっている俺を嬉しそうに眺め、唇の端から零れた唾液を下で拭い取った。
 はぁ、はぁと、息を弾ませていた俺が、そんな刺激だけでピクッと身体を震わすのを見て、クスっと笑う陽依都。
 俺は、ジロリと睨みつけた。
 陽依都は、挑発的な瞳で俺を真っ直ぐ見据えながら、だらしなく外に出されたシャツの中に手を入れる。
 この寒空の下にずっと居たにもかかわらず、侵入してきた陽依都の手のひらも指先も燃える様に熱くて驚いた。
 さわさわと、わき腹を優しくなぞられると、くすぐったさと、どこかもどかしい様な、感覚に襲われ、体を捩る。
 あの、キャンパスをなぞっていた、細くて長い指先が、今俺の肌に優しく触れている…。
 そう思っただけで、身体の芯がジーンと疼き、身体はどんどん熱量を増していく。
 耳たぶを弄ぶ様に、唇で甘く噛んで、そっと首筋を線に沿って舐め下ろされると、身体がビクッと何度も震え、
「あっ…ぁ…なにやって…っ…ッ…ぁ」
 弄ばれていると分かっていても、どうする事も出来ない快感に、反射的に身体が反応する。
 自分の放った甘い吐息にさえ、熱く敏感になってしまう。
「ちょっと待てよ…誰か通ったらどうするんだよ!」
「下校時間でもクラブ終了時間でもない…こんな中途半端な時間にこんな裏口を誰が通るんだ?それに…」
 顔を上げた陽依都が、目を細め、ニヤリと意地悪く微笑み、耳元で囁く。
「それもまた…スリルがあっていいんじゃない?」
「!!」
 言い返そうと息を吸ったものの、抗う言葉も見つからず…
 ぶすぅっと膨れっ面で見据えたそこには、陽依都の柔らかな余裕の笑みがあって、完全に相手にペースを握られたことを、思い知らされた。
 俺は、そのたおやかな微笑に、ただただ翻弄されながら、漠然と、訳の分からない言い訳で、自分に納得しろと言い聞かせていた。

―ま、いっかぁ〜…陽依都(コイツ)なんだから…―

「俺さ、ずっと思ってたんだ。伊織のこのラインがすごく綺麗だなって。ねぇ、触ってもいい?」
「…はぁっ…あぁっ!…っ」
 俺にその陽依都の言葉に答える余裕は何処にもなかった。
 ただ、甘ったるい吐をはき続ける俺を見て、クスリと笑った陽依都が、右手で露になった、俺の欲望の中心を弄びながら、左手で、俺の肌蹴たシャツを肩からスルリと払い落とし、鎖骨のラインを指でなぞる。
 蕩けるような快感に、敏感に反応する甘い声音。
 何度も唇を噛み締めて抑えようと試みるものの、その恥らうような仕草は、陽依都の痴態行為を更にエスカレートさせてしまう。
 鎖骨に沿って這わされる陽依都の舌の感触に身体が跳ね上がる。
「あっ…やめ…ろってば……マジで…っ…マジで」
「すごい綺麗…やっぱり、触ってみないとわからないんだよね題材って。どんな肌触りなのか、どんな温もりなのか、どんな熱い吐息を吐くのか…想像だけでは、描けない。俺、もう一度絵、描きたくなった。今なら、空なんて通さずに伊織を描ける気がする」
 『好き』と耳元で付け加えた陽依都の、胸がキュッと軋むような熱い声の間接的な刺激と、強く、浅く…繰り返し与えられる下肢への直接的な刺激とで、いよいよ抑えが効かなくなる。
 言いようのない気持ちよさと、先に登り詰めていく恥ずかしさで息が苦しくなり、その胸の圧迫感が、また…堪らない。
「あっ!…ダメ…っ…やめろ……陽依…都…んぁっ…頼むよ」
 陽依都の肩にしがみ付いて、手を緩めて欲しいと懇願する。
 しかし、陽依都にその気は全くない様子で、
「イッていいよ、伊織。全部受け止めてやるから」
 あっさりと卑猥な言葉でかわされてしまう。
「やっ…やだ…そんな…一人でイッたら……恥ずかしいだろ!」
 半ば半狂乱になりながらそう叫んだ俺を見る陽依都は、やっぱり微笑んでいた。


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