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『ある作家の話』
【ホラー その他小説】

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『ある作家の話』-1

編集者の証言:

「そりゃ早かったですよ、K先生は。一年に長編2冊と短編集3冊のペースですからね。イメージとしちゃあ、一年365日、24時間書いてるって感じでした。それにあんな穏やかで、優しげな人柄からは想像出来ないような、【オーエンの流儀】とか【殺戮の日々】みたいなハードバイオレンスばかり書いてたっていうのも、イマイチ不思議でしたね。手書きだから字が荒くて汚くて、校正が大変でした。えぇ書くのは早かったですよ……」
 
 
 
電器屋店主の証言:
 
「K先生?知ってますよ、そりゃあ。うちの大得意様ですからねぇ。月一台のペースでノートパソコン買い換える人なんてそうめったにいるもんじゃないし、機種なんて選んでる暇はない、て感じで、飾ってある展示品を持って帰ったこともありました。キーボードがすぐ壊れるとかで困っておられて……えぇ、優しくてニコニコした、人当たりの良い人でしたよ……」
 
 
 
看護師の証言:
 
「K先生の手ですか? ヒドい状態でしたね。両手首とも重度の腱症炎で、指の関節という関節が腫れ上がって、そりゃ痛そうでした。それでも書きたい、書かないと困るんだって、担当の医師に泣きついてましたっけ。脅迫観念ていうのかなぁ。押さえ切れない、押さえ切れないって、柔和な顔が半べそかいてて、見てるこっちが辛くなりましたよ。えぇ、全治2ヶ月です」
 
 
 
速記者の証言:
 
「K先生んとこのアルバイト? えぇ、やりましたよ、口述速記。結構イケメンで優しそうだったし、時給もよかったから。夜は夜でまた違う人、雇ってたみたいだけど。書斎のロッキングチェアーに座ってね。包帯でグルグル巻きの両手、膝の上に置いてニコニコしてるから、楽な仕事かななんて思ってたけど、始まったらトイレ休憩以外ぶっ続けで8時間しゃべり通しだもん。それに内容が過激過ぎて、気持ち悪くなるし。一週間で辞めちゃいましたよ。結構癒し系で、タイプだったんだけどなぁ……」
 
 
 
医師の証言:
 
「K氏の病名ですか? 咽頭ポリープですよ。それに声帯もずいぶん痛めていましたね。喉を使い過ぎたんでしょう。声がかすれてほとんど聞き取れない状態でした。幸い悪性ではなかったし、オペ自体もさして難しいものではありませんと説明させていただいたんですが、その代わり1ヶ月程度声が出せないと知った時のK氏の狼狽振りには驚かされましたね。上手く動かない手で筆談を試みたんですが、ヤツガクルトメラレナイ、ヤツガクルトメラレナイ…と意味不明な言葉を繰り返すばかりで、あんな温厚で人当たりのいい紳士が、もう半狂乱という状態でしたよ。えぇ、翌日入院してもらいました」
 
 
 
刑事の証言:
 
「Kの事件?あれはひどかったねぇ。入院中の病院を抜け出して、繁華街で無差別に通行人に襲いかかったんだが、手にナイフをテープで巻きつけて、5人死亡、7人が重軽傷だからなぁ。中には子供も数人混ざっていたよ。確か奴は『血と雨と硝煙』という本の作者だろ。読んではみたけど、あの小説に出て来る主人公みたいに、殺しが楽しくてたまらないって感じだったらしい。薬に関して前科もなく、精神科への通院歴もなし。地元の聞き込みじゃ、温和でニコニコして虫も殺さない紳士だっていうし、動機解明は今となっては難しいね。しかし、作家なんて人種は、心の中に、どんな魔物がとり憑いてるか、わかったもんじゃないねぇ……」
 
 
 
        End


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