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秋葉原グラフティ
【コメディ その他小説】

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秋葉原グラフティ-2

 社長は目を開き、ロボメいドの方を見る。
 彼女はまるで命の火がともったように人間的な肌の温かみが感じられる。

「ピーッ。ゴ、ゴシュジンサマ……」
 ロボメいドの少女はゆっくりと目を開き確かな口調でそう言った。

 至福の時だった。今までの努力が報われた時だった。社長は涙を流して喜んだ「感無量だ! もう死んでもいい! 何かもうこの子のためなら死ねる!」と完璧に主従逆転的な発言を連呼する。

「ワタシノナマエハ?」

「え! ええっと〜……雪奈!時期はちょうど雪降る冬だし、すてきだろ! 君の名前は雪奈だ!」

「ユキナ? ワタシノハナマエハユキナ」
 ロボメいドは何度もそう口ずさんでいた。
「そう! 雪奈! この名前の由来は思い起こすこと15年前……俺が高校2年生だった頃の初恋の女生徒の名前なのだ! 彼女とはクリスマスイブの日にデートする約束を交わした。もちろん! 彼女に告白する気で張り切っていた。寒空の元、ツリーの真下で俺は必死に彼女を待った。いったい何時間待ったことだろう……だが結局、約束の場所に彼女は現れなかった。俺はデートをすっぽかされたことですっかり憤慨し、彼女を問い詰めようと考えた。しかし、彼女はイブの2日前に家族とハワイ3泊4日の旅に出かけたとかで留守だった。その後、俺は塞ぎこむように衰弱し風邪を誘発! 冬休み明け……彼女は見事に焼けた小麦色の肌で帰国して皆の注目の的。一方のおれは風邪をひいていたため皆から厄介者……挙げ句の果てに風邪からインフルエンザを併発! ダブルパンチですっかりダウンした俺は期末テストを受けることができずにそのまま留年! 彼女はシーユーアゲイン! とか言いながらハワイに留学! 全く正反対の運命に俺は神を恨んだぜ。ふふふ、こんな酷い目にあっていながらも彼女を崇め敬っていたんだから自分が恨めしいぜ……」

 ハッ! と社長は愚痴をこぼしている自分に気づいて「ゴホン」と咳払いをして話題を変えた。

「すまない。気にしないでくれ。それにしても『ご主人様』なんて呼び方はこちらとしても何か忍びないからな。やっぱりここは『社長』と呼んでくれたまえ」

 ロボメいドはコクりとうなずいて言う。
「リョウカイシマシタ。ブチョウサン……」
 ん、あれ?部長?「おっかしいなあ、部長じゃなくて俺、社長だよ?」

「カチョウサン、ヨロシクオネガイシマス」
あれれ? またおっかしいくなった。しかも何か管理職的なランクが下がったぞ?
「あ! そうだ。説明書、説明書」
社長はもう1度取扱い説明書の項目を見てみる。
『2、ロボメいドは起動から5分以内に、間近な人にとって最も適したネームを自動決定します。ちなみに変更は不可能です。』

「な! じゃあ俺は普遍的な企業だったら課長クラスってことか……」
 ふふふ、と社長は薄気味悪い声を上げて椅子にもたれ掛かった。

「まあいいだろう。呼称など関係ない。15年前の出来事を境に俺は変わった。かつての苦悩をバネに希望を抱き、我が尊大なる自制心をセーブして、且つ人間としての尊厳を捨てた。起業から10年、この腕一本で頑張ってきたかいあり、ようやくマイユートピアである秋葉原に小さな会社を構える事が出来たのだ。そしていつか必ず……我が社に雪奈ちゃんをお迎えするのだ……」
 おっと前置きが長くなったな、すまないと言って社長はどでかいディスクに座り込み。


「さてせっかくロボメいドが来たんだし何か注文をしようかな……適当にコーヒーでもいれてくださいな。ガムシロを大量に入れた激甘なやつ」

「リョウカイシマシタ、カチョウサン」 そう言ってロボメいド給湯室へと歩いていった。

 社長は他社と進行中のプロジェクト資料に目を通し始める。「むふふ、やっぱりメイド服は最もポピュラーな黒白に限るな」


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