投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

僕は波だ。
【その他 その他小説】

僕は波だ。の最初へ 僕は波だ。 1 僕は波だ。 3 僕は波だ。の最後へ

僕は波だ。-2

ふと先生の声がした。

「よく見てみろ。おまえが望む岸は目の前だ。」

はっとして僕は目前の岸に目をやった。 

手の届く所に確かに岸はあった。 

何故気付かなかった。 

僕はそれを求めていたはずなのに。 

泡を立てながら、僕の息が水面に浮かぶ。 

そこへ行くのを恐れていたから。 

だって僕は波。 

波が岸にたどり着いつけば波は消えてしまう。 

地面に叩きつけられて消えてしまう。 
痛みも伴うだろう。 

「先生、怖くてそこには行けません。」

僕は泣き叫んだ。 

ブクブクと水泡をたてて僕は深みに沈み始めた。 

もはら居心地のいい空間。 
干渉も争いもない深海。 
静寂の深海。 

その静寂を打ち払うように先生は叫ぶ。 

「おまえは波じゃない。おまえもこの地球の海の一部なんだよ。
恐がらなくていい。
心の声に耳を傾けて。」

温かく優しい先生の声。 

まるで水面を響きながら僕の心に語り掛けるかのように。 

「でももう遅いです。先生。」

僕は浮かび上がれるだろうか? 

その先へ行く勇気があるだろうか? 

今を捨て去る覚悟があるのか? 

未練は? 

今のままでいい…… 


だから… 


僕は海の深くを目指す。 

感触がした。 

懐かしく力強い手。 

大好きだった。 
尊敬していた先生の手。 
それは僕をゆっくりと引き上げながら、 

「おまえの心に耳を傾けて。」 

と再び叫んだ。 

僕はゆっくり耳を閉じた。 
外界の音を閉じるために。 

何も聞こえなくなった。 
何も見えない深海。 

僕の心はなんて言っていた。 

叫び声に耳を傾ける。 


僕は波だ。の最初へ 僕は波だ。 1 僕は波だ。 3 僕は波だ。の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前