《魔王のウツワ・７》-4
「落ち着け…姫野が誰と飯を食おうが、姫野の勝手だろうが…」
理性を総動員して己を落ち着かせる。
このまま、戻ろう…
だが、心の何処かでは、まだ納得しきれていないのか、足は再び動き出した。
職員室が見えてきた。ふと見ると姫野が教師と何か話している。
進路や勉強のことで聞きたいことでもあったのか？
だが、雰囲気はちょっと違っていた…
教師の諭す様な声が聞こえてくる。姫野は俯きながら何も喋らない。
姫野の辛そうな表情が心を乱し、教師に少し苛立ちを覚えた。
理由は分からないが、姫野を解放してやろうと思い、歩き出した時…
『アイツ等とはあんまり付き合わない方がいいぞ、お前のイメージまで悪くなる』
教師のそんな言葉に身体が強張った…
アイツ等とは…言われなくても分かっていた…
姫野に俺と七之丞との付き合いがあることも噂になっていたから…
「でも…」
姫野が初めて反論しようとした。
『今時、友達を選べとはあんまり言いたくはないが…だがな、何かあってからじゃ遅いんだぞ…』
そう言って教師は職員室へ入っていった。幸運にも俺には気付かなかった。姫野はその姿を見送り、複雑な表情のままこちらを振り向いた。
「ッ！！…鬱輪…さん…」
そこでようやく俺の存在に気付いた。
「あ、あの…」
「遅いから迎えに来た…何を言われてたんだ？」
少なからずショックを受けたが、それを表に出さない様に言った。
「いえ…何でもないです…」
「そうか…早く飯食おう…」
※※※
何も語ることなく、屋上に着いた。七之丞はおらず、気付けば携帯にはメールの着信を示す光が灯っていた。
携帯を開き、操作をしてメールを確認する。案の定、七之丞からだった。
『ちょいと用事が出来たｗヒメとあま〜い一時を楽しめ(^-')b』
『ｗ』や『(^-')b』が使ってあるのが無性にムカツク…
「あ、あの…神足さんは…？」
「何か…用事だそうだ」
姫野が声をかけなかったら、危うく携帯を握り潰すところだった…
「そうですか」
「とにかく、食べよう」
壁にもたれ、弁当箱を開けた。姫野も隣りにチョコンと座り、同じ様に弁当箱を開く。
「なあ…姫野…髪切ってどうだ？」
「えっ…？あ、あの…いろんな人と仲良くなりました」
弁当を食べ終えた姫野に尋ねた。姫野は一瞬、びっくりした様な表情をしたが、きちんと答えた。
「昼も誘われてるのか？」
「は、はい…」
「…別に俺達に気を遣うことなんか無いぞ…もう…ノワールの世話もしなくていいんだし…」
「…わ、私は…」
「姫野のこと…好きだって奴も多いし…」
姫野の頬が朱に染まった。紅くなった頬が白い肌に映え、綺麗だった…