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MERMAID
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MERMAID-2

 足の不自由な彼女を無理やり引き上げる事は容易だ。
しかし、それでは意味がない。彼女が自分で此岸に来てくれなければ。
いや、地上が此岸であり、水中が彼岸であると言う認識こそが誤りなのだろう。
現在の彼女にとっては水中こそが安住の地なのだ。
私が地上でしか生きえない為に、そして私が彼女と共に生きる事を願った為に、彼女はそうしてきただけなのだ。
幾度目かの給油と逡巡の中それを悟っても尚、私は水中に入ろうとは思わなかった。
私は…例え此処にもう一つポンプが有ったとしても、そうしなかっただろう。
否、その考えは幾度となく思考を掠めた。

確かにそうすれば今よりずっと彼女の側に居られよう。
整った顔に、美しい髪に触れられよう。
それらは常に私の切なる願いだ。
しかし、それは刹那的な物に過ぎない。
この奇妙な別居生活が始まる直前、私は彼女に言った。
我々は水中で生きる様には創られていない。
そろそろ沈んでいる事すら難しくなっている筈だ。アンカーを持っていなければ浮かんで来ている。
無論食事も採っていない。このまま続ければ、3日も保たずに衰弱死するだろう。
水槽にたゆたう私の姫君は、人魚には成れない。
此処に意地悪な魔女はいないのだ。
ポンプの音は轟々と止まぬ嵐の様に響いている。
私はあの恩知らずな王子に成れるだろうか。
成れたとしても、随分と役不足だろう。
嵐の夜が明けた時、私の人魚姫は海辺に打ち上げられるのだろうか。




赤いふいごはそれでも一度だけオイルを吸い、ひゅうと吐く。

手放した私も、空気を吸い、ワザとひゅう、と音をたてた。


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