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いつか大きな花に成れ
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いつか大きな花に成れ-5

「ごめんねぇ…… わたしがしっかりしてないばっかりに……」
 床に落ちて折れたと思っていたスミレの茎も、どうやら半分繋がっていたようです。
 わたしは曲がっていた茎をそ〜と真っ直ぐ戻すと、傷ついた所をセロハンテープで止めて、オフィスの隅っこにある観葉植物の大きな鉢植えの中に、移し変えました。
 そうしてポケットの中から、書類を束ねる時に使う黒い紐を取り出し、それを観葉植物の太い幹に引っ掛けると、軽くスミレの茎とを結わえたのです。
「こうして置けば、茎が伸びてもひっくり返ったりしないわよね」
 そんな事を呟くわたしの瞳から、知らず知らず、また涙が溢れていました。


 〜〜〜〜〜


 ところで、よくない事って重なる物です。
 数日後私は部長に呼びつけられ、
「すまないが御崎君、地方の支局へ出向(しゅっこう)して来てくれないか」
 突然、そんな事を言われました。
「出向ですか! わっ……わたしがですかっ」
「いやぁ〜出向と言ってもね、3ヶ月でいいんだよ。何分、新企画のラインを立ち上げたものの、不具合が多くてね。ソフトのバグ取りと、運用マニュアルの整理をして来てほしんだよ」
 部長はそう言いながら、少し申し訳無さそうな顔をして頭を掻きます。
「いや〜何分にも地方の人材が足りなくてね、支局の次長からも頼まれちゃったもんだから、嫌って言えなくてねぇ」
 そうです、わたしも嫌って言えないんです。
 そんな訳で3ヶ月間、支局での滞在出張と成ってしまいました。


 季節は過ぎて夏真っ盛り、とは言えお盆も過ぎて来ると、幾分日の陰りも早くなり、昼間はセミが鳴いているものの、夜は秋の虫の鳴き声がチラホラ。
 暑いの滑ったのと言っている内に、出向期間の3ヶ月もあっと言う間に終わってしまいました。
 明日からはまた元通り、本局への出社と相成って、
「ああ〜〜疲れたなぁ…… 明日から本社かぁ…… 面倒臭いなぁ〜、会社辞めちゃおっかなぁ〜」
 そんな事を、脈略も無く考えながら、今日はとっとと就寝を決めて、ベットにバタンです。
 すると。
”ピャラリラ! ピャラリラ! ピャラリラ!”
「あれぇ、優子から電話だぁ。なんだろぅこんな時間に」
 携帯電話の着信音に急かされて、出てみれば案の定、悪友の優子です。
「なによあんた、まさかもう寝ようとしてたぁ」
 甲高い声を張り上げて、優子の声が、携帯電話のバイブレーション機能以上に本体を揺らすと、私も電話から顔を遠ざけます。
「なによぉ優子ったらぁ、うるさいなぁもう〜」
 わたしは顔を顰めながら、電話に向かってそうぼやき。
「うるさいとはなによー! うるさいとはぁ!! だいたいあんたさぁ帰って来たんなら、ただいまの一言くらい掛けなさいよまったくぅ、友達がいが無いんだがからぁ」
「ああ〜はいはい…… お土産なら明日会社で渡すから、用事がないんならもう切るよっ!」
「酷いなァ〜まったくぅ。……まあ用事ってほどの事じゃないけどさっ」
 優子は相変わらずの調子です。のらりくらりと世間話を一通りして、最後に。
「そう言う訳だから、あんたのご帰還祝いにって明日皆で飲みに行く事になってるんだから、バックレルんじゃないわよっ」
「あ〜はいはい解りましたっ! ……じゃあもう切るよぉ!」
「ああーそうそう言い忘れるところだったっ! あんたのスミレ、大変な事に成ってるからね。あした出社して来ても驚かないようにっ!」
「えっ? スミレ…… スミレがどうかしたの!?」
「いいからいいから、明日のお楽しみっ! そんじゃね〜バイバ〜イッ」
”プチンッ!”
(大変って何よも〜。気になって眠れないじゃない、優子ったらぁ〜! でもどうせ……枯れちゃったとかって、事だろうなぁ)
 そんな事を思いつつ、結局は気になってなかなか眠れないまま、わたしは枕を涙で濡らしていました。


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