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『そしてその歌は世界を救う』
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『そしてその歌は世界を救う』-3

『これ、買って』
もう既にCDを入れられ封をされた半透明な薄い袋を受け取るため財布をパチッと鳴らして閉じた母は樹の言葉に振り向きソレを見てこう言った。
『あんた音楽なんか聴くんかいな』
そう、樹はCDを強請ったりましてや自分で買ったりなどしたことは無く、母のお下がりに貰った古いタイプのCDラジカセは極希にラジオを鳴らす程度にしか使用していなかった。

『これ欲しいねん。雑誌いらんからこれ買ってーな』

樹は中学を卒業すると同時に関西弁を使わなくなった。
理由は特に無い…と本人は言うが
生まれた時から関西圏に住む樹は標準語をテレビくらいでしかあまり聞かなかったが別に話そうと思えば話せた。
ネットで友達になった自分の一回りも上の男が関東に住んでいるにも関わらず関西弁を使用してる事に対して軽い遊び心で対抗している内に癖になった、というのが理由なのだが誰かの真似になってしまうのが嫌な性格に成長した樹はそれを認めようとはしない。
『ようわからんCDとちゃうやろなぁ?見してみ…あんたこれ外国のやでわかるんかいな』
母は息子の奇怪な行動を怪しむよりも不安げに思ったのかそう尋ねた。

『ええから、これ欲しいねん』

執拗にまで物を強請ったりした事が無い息子がこれほど欲しいと言うからには相当欲しいのだろうかと考えた母だが 逆に自分の息子がこれをキッカケに変な方向に成長するのではと思ったが趣味が多い自分とは違い好きな物があまりなさそうな息子がのめり込める物ができるのは悪い事では無い。
そう考えた母は樹からCDを受け取りレジに置いた。
『これもお願いします』

『はい、えー1980円になります』
母は又パチッと鳴らし財布を開いた。
さっきよりも音が大きく聞こえた様な気がした。


樹は何故自分がこのCDを欲しくなったのかまだよくわかっていなかった。
なんでもいいから買ってもらいたいと思ったのは事実だが断られてもこれほど強請ったのはこれが生まれて初めてだしそこまでして強請った理由は本人にもわからない。
『Rockに理由なんかねーよ』現在の樹ならこういうだろう。
外人の歌聴くとか格好良いやん なんてみんなに言われてみたいと思ったのも事実だがそれなら流行りの歌手の曲の方が周りの話題にも入りやすく良い、となるのが今までの樹だった。
最近になって周りとのズレを少しずつ感じていた樹はこう思った。
やっぱ俺ってみんなと少しちゃうんかな。でも人と一緒ってなんか嫌やったし変わってるていうのもある意味かっこええかもしれんな。


そんな事を考えながら家に帰りつくとすぐに買ってもらったCDを聴こうと思っていたのだが不幸な事に母の新しい方のオーディオが不調で樹がお下がりに貰ったCDラジカセを持っていかれてしまった。
『んやねんそれ…まぁええか又明日でも』

そう言うと樹はリビングの物をしまう黒い三段ボックスの一番上の段の取っ手を引き 封を開ける事もせず素早く中にCDを入れてドンッとボックスを奥に押し込んだ。



これもミスの一つだった。
普段CDなどを買わない樹はそれを買った事実さえも忘れてしまい、滅多に目にする事も無いボックスの中身を気にする事無く時は流れ無事に小学校を卒業し中学に進学してしまった。


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