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私は雨が好きだ。

ざあざあと音を立てて全てに優しくふりそそぐそれは、ゆっくりとしかし確実に世界をとろかしてゆき、輪郭を曖昧にしてゆく。
草も木も土もすべてがとろとろとだらしなく弛緩して、弛緩した細胞の隙間からゆっくり何かが流れ出してゆく。
私はそれを空気と一緒に吸い込み、肺を満たす。
私以外の何かが、全身を駆け巡りゆっくり侵食していく。
そのうちお気に入りのワンピィスで覆われた私の躯も例外なく、とろとろに煮込んだシチューのように、じわりじわりと輪郭を無くしてゆく。
そしてどろどろに溶けた私が、雨粒をつたいゆっくりと撹拌されて世界と一つになってゆく。

少しの痛みと高揚感。

それが私の物なのか、輪郭を無くした誰かなのか。はたまた人ではない何かなのかすら判別できない程に一つになってしまうような一体感。


その心地のよさと云ったら。


そのうち空が裂けて雨が止み、太陽という刃で私たちは無残にも切り取られてゆく。
しかし私の体内は、どろどろに溶けた何かの破片で埋め尽くされたまま、私と云う人間を形成している。
昨日とは明らかに違う私の躯は、ホルマリンに浸された日常に溶け込んでゆく。


その愉快さと云ったら。



だから私は窓辺に座り、雨が降るのをひたすら待ち続けているのである。


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