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『僕っていけない女の子?』
【SM 官能小説】

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『僕っていけない女の子?』-1

(1)
 今度こそ、僕はこの世からおさらばするはずだった。

 昏睡状態から目覚めると、白い壁の天井がぼんやりと見えて、白衣の若い看護婦が僕を覗き込んでいた。
「あら、やっと気が付いたようね」
「ここ、どこ?」
「病院よ。救急車で運ばれてきて、もう一週間になるかしら」
「僕……死ねなかったんだ……」
 そう呟きながら起き上がろうとして、僕は両手が拘束されているのに気付いた。頭痛がひどく、手術の跡なのか胸のあたりに痛みが走った。腕に点滴の注射と身体中に沢山のパイプが繋がっている。

「えっ。どうして、僕は縛られてるの?」
「あなたはまだ絶対安静にしていないと。寝返りを打ったりしたら、大変だからよ。それと、あなたがまた自殺しょうと思っても出来ないようにするためね」
 若い看護婦はそう言いながらシーツにくるまれている毛布を半分剥がして、僕の包帯だらけの胸のあたりをチェックしていた。
「気が付いたから、先生を呼ぶわね」
 看護婦は枕元の何かのスイッチを押してから、憐れむような笑みを浮かべた。

 しばらくすると、いつの間にか黒縁の眼鏡をかけた女医がベッドの横に立っていた。色白の凛々しい顔立ちだが、インテリ女特有の相手を見下すような冷たい表情だ。
「宮内薫さん、起きて」
 僕はまた少しの間、昏睡していたのかもしれない。
「えっ……宮内、薫?」
 そう呼ばれても、僕はそれが自分の名前かどうか分からなかった。
「やっぱりね。名前も忘れたようね。思い出せること、何かある?」
 女医の眼鏡の奥の透明感のある涼しげな目が奇妙な光を放っていた。首から下げているIDプレートにはDr.S.SAEKIと書かれている。
「えーっと、僕は死ぬつもりだった。それに……。ええっ。やだな。他のこと、なーんも出てこないっ。ど、どういうこと?」
「一時的だと思うけれど、完全な記憶障害ね。頭部にひどい損傷を受けていたから」
 冴木という女医は僕の記憶を取り戻させるためか、一枚の画像を見せてくれた。

 救急で僕が病院に運ばれてきた時の姿らしいのだが……。
(ええっ、こんな馬鹿なことがあってたまるかっ)
僕にはあまりにも衝撃的な画像だった。
「……こ、これが、僕だって言うの?」
 女子高の制服を着た長い髪の少女が全身ずぶ濡れで、確かに頭から血を流していた。だけど、こんな可愛い少女が僕であるはずがない。まったく納得がいかなかった。

「宮内さんは奇跡的に助かったの。一度は、心肺停止していたのよ」
 女医は僕の拘束されている腕に何かの注射を打ちながら、そう言って笑うのだ。
「い、一度は死んだってことですか?」
「そのようなものね。わたしが天国の入口から宮内さんを引き戻してあげたの」
「そうですか。で、でも……これは、僕の写真じゃないよ」
 まだ夢の続きを見ているような変な気分だった。

 夕方になって、パパとママらしい夫婦が駆けつけてきた。
女の人は泣き腫らした目で僕を見ながら、まだ涙が止まらないらしくて何度もハンカチを当てていた。
「薫の意識がやっと戻って来てくれて……う、うっ。ママは……ううっ」
 彼女は錯綜する複雑な感情が込み上げてきて、言葉にならないらしい。
「僕に何があったのか……何も分かんないんだけど」
「薫、おまえ……自分の名前も何も覚えてないって、本当なのか?」
 男の人は僕に対してかなり強い怒りの感情を抱いているらしいことだけは分かった。
「……おまえは、また自殺騒ぎを起こしたんだ。これが三度目だ」
「あ、あなたっ。まだ気が付いたばかりの薫を責めないでっ」
「し、しかしだな、目が覚めても、こいつは自分のことを僕って言ってんだぞ」
 男の人が何を怒っているのか、さっぱり分からない。
「僕が僕って言っちゃ、何かおかしいの?」
 僕がそう言うと、女の人は咽喉から込み上げるような激しい嗚咽を洩らして、泣き崩れてしまった。

 二人が見せてくれた走り書きの遺書のようなメモは、確かに女の子が書いたような細い筆跡だった。僕は天井を見上げながら、夜中に何度もそのメモを思い返していた。


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