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きすのあと
【純愛 恋愛小説】

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きすのあと-2

「着いた」
我先にと車から飛び降り、目の前のテーマパークを見上げる。
「近くで見ると結構でかいなあ」
「だね」
夏休み最後という事もあって、家族連れやカップルで結構にぎわっていた。
そっと隣を見上げる。少し背の高い、少し細身の少し色白。最近ちょっと焼けたかな…いや、私の方が焼けた。それにまた痩せた気がする。彼に言わせれば仕方ないらしい。先生という立場や受験生の担当、上からの指導などは、学生にはよく分からないけれど大変だろう。特にうちは厳しい。ろくにご飯を食べない時もあるという。私はというと…
「行こう」
振り返った彼と視線が合う。
「う、うん」
自然に握ってくれる手。それだけで、私は嬉しい。ギュッとすると、ギュッと握り返してくる。隣に誰かいるって事がこんなにほっとするものだという事を、私は彼から教わった。
「あったかい…」
「俺も」
寂しがり屋の私を見つめて、微笑む。ねえ、私と居て、楽しい?
「いっぱい遊ぼうな」
「うん」
「どこ行きたい?」
「えと…ジェットコースター」
「決まり!あっちかな」
久し振りの遊園地。彼とだから尚更ドキドキする。誰と居るより1番楽しいし落ち着く。
また、少し背の高い少年のような青年を見上げてみる。その視線に気付かれてしまった。
「ねえ、さっきからどしたの?何か変だよ。車酔いでもした?」
「何でもないよ。ちょっとね」
「何?言ってよ」
「…幸せだな…って思って」
小声で言ってみたがちゃんと聞こえていたらしい。
「俺も」
そう言ってギュッとする。恥ずかしさで赤面した顔に、彼がそっとキスをした。
遠くから中学生くらいの少年と小さい少女を連れた家族連れがこっちへ歩いてくる。
「あ…」
「隠れろ」
慌てて近くのトイレに 駆け込む。あの少年は一個下の、確か…

「大丈夫だった?」
「ああ、気付いてないと思う」
「良かった…今の」
「二年のYだ」
「やっぱり…」
「知り合いか?」
「うん、あの子の姉ちゃんとは親友だったから」
「そっか…そうだっけな」
「うん…」
Yは、今から半年前に亡くなった。
突然の電話。今でも電話に出るのに少し気が引けるのは、多分あのせいなのだろう。

静かな、少し弱々しい、でもはっきりした声。電話口でのYの母親の言葉に、私は相槌を拍つ事さえ忘れていたような気がする。
葬式には先生も来ていた。Y姉弟は先生の授業の生徒で、二人共よく慕っていた。
〈人の夢と書いて、はかない〉
葬儀での両親の言葉は、今も耳から離れない。

「危なかった」
はぁ、と溜息をついた彼は慌てて吸い込んだ。
「いけないいけない、怒られるところだった」
「〈溜息つくと、幸せが逃げちゃうんだよ〉って?」「そう。お前の口癖」
と言って彼は言い直した。
「違った」
「うん」
それはYの口癖だった。どんな時でも弱音なんて吐いた事のない、Yの。今もYが笑いかけてくれる気がして、私は目を閉じて微笑んだ。


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