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"Tacki" for prudish Meg
【調教 官能小説】

第一話 街コンの後-1

「あーあ、これから一人でどうしようかなぁ。」
 3月20日、春分の日の日曜日の夜8時過ぎ、池袋西口のとある居酒屋を出て数メートルほどあてもなく歩いた後、芽美(めぐみ)は溜息をついて立ち止まった。ついさっきまで一緒だった千佳(ちか)はちょっと目を離した隙に、SNSに一言、「ごめん、今度埋め合わせするから」とメッセージを残して消えてしまった。今頃はおそらく、消防隊員だという千佳好みのがっしりした男性と二人で飲んでいるのだろう。

 春分の日にふさわしく夜になっても気温は高めで予報どおり桜の開花がはじまっている。そして明日は振替休日。こんな夜に友人に置いていかれて一人でこのまま帰宅してしまうのは、まだ25歳の芽美にとって寂しく感じられた。しかも今日は恋人の孝(たかし)の誕生日。勇気を出して出張中の彼にメッセージ送ってみようか、そう考えて足元にかばんを置き、スマホを取り出す。その時、後方から大きくはないが、よく通る渋いバリトンで自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あれ、吉野先生?」
 聞き覚えのあるその声に芽美はギクリ、として恐る恐る振り返る。そこには、まるで不思議の国のアリスに出てくるチェシャ猫を彷彿とさせるニヤニヤ顔でゆっくりと近づいてくるスーツ姿の男がいた。
「桐原さん、お久しぶり・・・でもないですね。こんな場所でいったい何をなさっておられるのですか?」
 芽美は即座に仕事で子供達の保護者と面会するときの澄ました表情を浮かべ、拓海(たくみ)のほうへ体の向きを変えて立ち止まった。

 身長150センチ弱の芽美は、街コン仕様の高めのヒールを履いていても180センチ近くの拓海を上目使いで見上げる姿勢になる。頬が若干赤らんでいるのはお酒のせいだけではない。上から包み込むように自分を見つめる拓海の視線の中に時折、一度囚われてしまったら二度と抜け出せないような、強く複雑な感情が籠もっていることに芽美は気がついていた。
 人生経験、特に男性経験の乏しさから、それがどのような意味を持つものなのか理解できてはいなかった。しかし芽美の女としての自尊心を満足させるものであり、その麻薬のような感情のきらめきを期待して、13歳ほど年上の男の目の中を恐々としながら覗き込んでしまうのが常だった。昨年の秋、私を初めてみた時にこの人が驚愕の表情を浮かべたのはなぜだろうと思いながら。

「堅いなあ、拓海でいいって言ったじゃないか、僕も芽美ちゃんって呼ぶからさ。今日は勉強というか、視察を兼ねて知り合いがここでやってる、『とあるイベント』のお手伝いに来たのさ。で、芽美ちゃんこそ、いったいここで何をしてたんだい?」
 拓海はとあるイベント、をやけに強調しながら言って、芽美の肩を軽く叩く。ニヤニヤ顔はチャシャ猫もびっくりするレベルに進化している。

 ああ、これはばれてるな・・・。芽美は観念して正直に答えることにした。
「街コンですよ、街コン。千佳に強引に誘われて。街コンの男性と消えちゃいましたけど。」
 ささやかな意趣返しで、拓海さんとは呼んであげなかった。さぁ、合コンが終わって親友に抜け駆けされて一人で帰ろうとしてる女の子をどう口説くつもりなのかしら。絶対に誘いにはのらないから。そう構えていたところへ、ニヤニヤを消して同情を込めた表情を浮かべた拓海から、芽美の寂しさの核心を突く言葉が直球で投げかけられる。
「そう・・・今日街コンに参加してるってことは、やはり孝くんと最近上手くいってないんだね。」

 動揺して返答に詰まる芽美に対して、更に言葉を被せてくる拓海。
「芽美ちゃん、ここからだとポーラスターホテルが近いから、あそこのメインバーで一杯やらないか?実は孝くんとのことでひとつ提案があるんだ。もしかしたら彼と上手くいくようにお手伝いができるかもしれない。芽美ちゃんにはたくさんご迷惑をおかけしてしまったから、力になりたいんだ。」

 真面目な表情でこう続けると、足元の芽美のかばんを左手でさっと拾い、右手を芽美の背中にあて軽く押しながら、ゆっくりと歩き出してしまう。
「この仕事ではよくあることですから・・・お詫びなんて・・・」
 背中を押す力に負け1、2歩踏み出しながらも、足を止め拓海に視線を向け断ろうとする芽美。しかし、男の視線の強さに息が上がり口が聞けなくなって、酔った身体を男に預けるようにして、小さい自分に歩調を緩めてくれた男とともに再び歩き出すのだった。


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