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妻を他人に
【熟女/人妻 官能小説】

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婚外恋愛 (2)-5

## 番外編:美魔女グランプリ・前夜(後編)

「あの……」

 さきほどから無言で会議卓の周りをぐるぐる周り、エントリー用紙や過去の入賞者データを黙々とチェックしていた男が顔を上げた。
「俺、新参だからよくわかってないとこもあるんだけど」
「なんです? Fさん」
 この男Fは、運営事務局メンバーとしては新参だが、E通堂歴の長いベテラン社員でなかなかのやり手うとい触れ込みだった。今回、低迷する美魔女グランプリへのテコ入れとして事務局に送り込まれてきたのだ。
「ちょっと心当たりがありましてね。この前知り合いに声かけてみたんです」
 Fはクリアファイルから一枚のエントリー用紙、そして数枚の写真を取り出した。
「さすがFさん、仕事が早いなあ!」
「俺たちの誰もやってないことをすでにやっている」
「いやいや、そんな期待しないで」
 謙遜しながら、エントリー用紙と写真をテーブルに広げるF。
「さっきまで他の参加者や過去の受賞者見さしてもらっててさ。ひょっとしてこの女性ならいいとこいけんじゃないかって」
「どれどれ」

 覗き込むメンバーたち。全員の顔がぱっと輝いた。

「めっっっっっっちゃ美人さんじゃないですか!」
「三十八? 二十代にしか見えないな」
「清楚で可愛い人だね。どストライク」
「お前の好みは聞いてないよ。全身写真は?」
「あ、こちらに」
 さらに写真を数枚取り出す。
「いける! スタイルも俺好み!」
「だからお前の意見はいいんだって。しかし一見して他の応募者とはレベルが違うな」
「女子アナさんみたい」
「それな」
「清楚やねえ」
「写真撮られ慣れてないっぽいのがいい」
「少し照れ気味なのが可愛いじゃない」
「あざとい……これはあざとい……」
「美魔女は自己顕示欲の塊ばっかだから珍しいぞ、こういうタイプは」
「磨けばもっと光りそうですね」
「磨かなくていいかも。ここまで突き抜けた美人だと素人っぽさが逆に売りになる」
「K大出のA社勤めか。プロフィール強い」
「お、裏ミスじゃん。初めて見た」
 いわゆる業界人にとって「K大の裏ミス」は通りがいい。
「既婚者、二児の母、インテリ、キャリアウーマン、裏ミス。おまけがいっぱいついてて売りやすいぞ」
「ファッション、芸能だけでなく女性誌や経済誌にもウケそうですね」
「彼女、実は業界誌には何度か登場してるんですよ」
 ゆきが取材を受けた記事をいくつか見せるF。
「ガチの有能じゃないすか」
「普段メイクでもお目々ぱっちりなんですね」
「うーん、可愛い」
「この手の記事にしては写真多めだな」
「編集者もわかってやってんだろ」
「それでこの人、Oさんていうんだけど、いつだったかの美人すぎる広報ブーム以来、ネットのおもちゃにされてんの」

 Fが提示した巨大掲示板のゆき専用スレッドやSNSの検索結果に、一同さらに身を乗り出す。「ネットやSNSで密かな人気」は、広告代理店の大好物である。カルト的知名度を持つ素人を拾い上げ商売のネタにするのは、彼らのお手の物なのだ。

「すごい逸材じゃない。どこで見つけてきたんですか、Fさん」
「俺も事務局入りしたからには、なんかできないかなって思って……」
「あ、ひょっとしてA社つながり?」
「うん。俺のあっちのプロジェクトでたまたまOさんが先方の責任者でさ」
 Fははじめ、A社に美魔女スポンサーのお願いをしようと考えていた。しかし偶然再会したゆきを見て気が変わった。
「四十前なのに責任者とは大したもんだな」
「たぶん同期の出世レースでも上位です」
「しかしFさん、クライアントの女性担当者によくこんな話持っていきましたね」
「さすがにいきなりじゃアレだから、仲良くさせてもらってたA社のW専務にまず話通しましたよ」
「ほー」
「なるほど、A社さんにとっても『女性が活躍する会社』ってイメージアップになりますしね」
「そうそう。『ワークライフバランス』とか『子育てと仕事の両立』とかいろいろ流行りの言葉並べてさ。んで最後にW専務と俺の二人でOさんを説得しました」
「さすがFさん」
「Fくん、この子は大切な商品になるかもしれん。くれぐれも手はつけるなよ」
「Fさんならやりかねない」
「おいおい、まさか。仮にもクライアントだぞ」

 E通堂の会議室は、最初の重い雰囲気が打って変わって沸き立っていた。誰もが一流の広告マンだからわかるのだ。たった一人でも、軸になる候補者がいればあとはどうとでもなる。今回の美魔女グランプリは成功するに違いない。

「いやーよかった」
「視界が一気に開けたぞ」
「お前ら、少しは我が身を反省しろ」
「そうは言っても目玉が一人いるといないじゃ大違いですよ」
「そりゃまあ、そうだが」
「あのー、実は……もう一人いるんです」
 ざわつく一同を横目に、Fがまたバッグをもぞもぞやっている。会議室の視線が、再びFに集まる。
「おいおい、Fくんの独壇場じゃないか」
「これは期待できるぞ」


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