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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み7 〜Summer Vacation〜-10

 ぱたん
 
 龍之介がドアを閉めると、美弥は肩をぴくりと震わせた。
 これからどうするのかと思い、頭の中身は千々に乱れている。
 自覚はないが、自分はイタしている最中かなり大きな声を発するというのだから、まさか部屋でコトに及ぶとは思えなかった。
 そんな事をしたら、隣の部屋に喘ぎ声が筒抜けになるだろう。
 だからといってお預けを食らわされるのは……もやもやした欲求を抱える下半身が、許してくれそうもなかった。
「!」
 す、と龍之介が後ろから美弥を追い抜く。
 すっかり意識してしまっている美弥は、それだけで小さく跳び上がってしまった。
 突っ立っている美弥を無視して、龍之介はTシャツとジーンズから寝間着に着替える。
「あ……龍之介?」
 美弥は思わず、戸惑った声を上げた。
 自分に恥をかかせないためにという配慮からか、こういう時には自分からアクションを起こしてくれる龍之介がまるっきり何もしないというのは、はっきり言って異例の事態である。
「ごめん。眠い」
 それだけ言うと、龍之介はもそもそとベッドに潜り込んだ。
 ……程なくして、寝息が聞こえてくる。
「………………」
 夜のお楽しみを期待してうずうずする下半身を抱えたまま、美弥は呆然とした。
 到着したばかりで荷解きもしていないのに眠る自分へ襲い掛かり、たっぷりと鳴かせた龍之介。
 ビーチパラソルの下でビキニの上から秘部を撫で、夜に対する期待を持たせた龍之介。
 なのに今、その彼はベッドの上で眠りに入っている。
 自分は、恋人の性欲を減退させるような真似を仕出かしたのだろうか。
 突っ立っていた美弥は、思い悩んで頭をぶんぶん振る。
 最初は嫌がったくせに、終わって結合を解きかけた龍之介へ『抜かないで』とおねだりしたのがいけなかったのか。
 はたまた、日焼け止めクリームを塗りながらのエッチなスキンシップを拒否したのがいけなかったのか。
「龍之介……」
 とりあえず美弥はベッドに近付き、龍之介の顔を覗き込む。
 龍之介は目を閉じ、完全に眠っているように思われた。
「……!」
 つまり、冗談でなくほったらかされているのである。
「嘘……」
 思わず、美弥はそう呟いていた。
 千々に乱れていた頭の中は、今や混乱してぐるぐる渦を巻いている。
 そんな渦巻きの発露は、しごく単純だった。
「ふぇ……」
 手の平に顔を埋め、泣き始めたのである。
 今まで有り得なかったシチュエーションにどうすればいいのか分からず、感情が押さえ込めないのだ。
「ふぇ〜ん……」
 恋人がSEXの相手をしてくれないという理由で泣けてしまう自分のメンタルな弱さに、美弥は泣きながらも驚いてしまう。
「あぁ、もうっ。泣かないでよ」
 突然、龍之介の声がして……視界がくるりと回転した。
「……起きてたの?」
 瞳からぽろぽろ涙をこぼしつつ、きょとんとした顔で美弥は尋ねる。
「ほっといて、寝る訳ないでしょ?」
 泣く恋人を優しく抱き締めながら、龍之介は言った。
「ちょっと焦らしてみようかと思って、寝たフリしたら……まさか、泣くとはね」
 倦怠期に突入しないよう時たま加えるスパイスが、悪いタイミングで少しばかり効き過ぎたようである。
「だって……!」
 顔中に降るキスの雨と涙を舐め取る舌先に心からの安堵を覚えつつ、美弥は龍之介にしがみついた。


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