方言放談-3
新型肺炎の騒ぎがその気配もないころだ。
焼きたてパンの店で、高齢の女性が店員さんに聞いていた。
自分のお目当てのパンが店頭に並んでないので、今日は売りきれたのかと聞いたら、まだ焼きあがっていないとのこと。
女性は店員さんに言った。
「せんど、かかりますか?」
店員さんはその言葉が理解できてなかったようだが、ふんいきを察したのか「もう20分くらいで……」と返事していた。
自分にはその「せんど」がすぐわかった。
(時間などが)「長い」という意味の、関西地域で広く使われてる方言だ。
自分が母親と、兵庫県南西部のかつて住んでいたところへ出かけると、知り合いと見られる女性が母親の姿を見つけて、
「やあ、あんた。せんどぶりやんか!」
と声をかけてくることしばしばだった。
(「せんどぶり」は「せんど」を応用した「ひさしぶり」のことかも、たぶん。)
自分は思いがけなくいきなり耳にした肉声の「せんど」に、文字通り「せんどぶり」に母親と歩いた町の光景を思い出してしまっていた。
【おしまい】