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妻を他人に
【熟女/人妻 官能小説】

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人妻の浮気心 (3)-4


  *

 ヴー、ヴー。

《ゆき! 今どこ!?》

 スマホの着信バイブが鳴るたびにドキリとする。

《ニュースで聞いたよ。電車止まってる?》
《大丈夫?》
《SNSでも騒いでるから心配してる。帰宅難民大量発生って》
《ゆきーー》

 返信を打つ手が震えている。いちど書いて消し、消しては書く。
 空調の効いた室内の暖かなベッドの上で、心は冷え切っている。寒空の下Yと手を繋ぎ「寄り道デート」していたときのほうがよほど暖かかった。今やあの甘酸っぱいの恋心の火照りは消え失せ、夫を裏切ってしまった事実の重大さにただおののいている。
 夫に何か返さねばと気ばかり焦る。でもなんて書けばいい? 夫からまた《おーい》とメッセージの着信。矢継ぎ早のメッセージにイライラする。今返事書いてるから少し待ってて。夫のことを疎ましく感じている今の自分が大嫌いだ。

 ようやく《乗り換え駅で足止め》とだけ打って送信した。そっけないだろうか。でも浮気しているとき変にパートナーに優しいと疑われるらしい。嘘をついている罪悪感もさることながら、いっぱしの不倫妻のような思考回路になっている自分がまた嫌になる。普段の自分ならこういうときどう書いていただろう。

《そっか、やっぱり》
《今日どうする? タクシーで帰ってくる?》

 ラブホテルの部屋に入るなりYとセックスをした。何もしないとあれほど心に誓ったのに久しぶりの行為に我を忘れ、最後はYに求められるままに彼の想いを口で受け止めた。夫のものは一度たりとも口に含んだことがないのに、今日はじめてセックスした男の精液を嚥下した。自分はこれが、こういう行為が好きな女だったのだと思い出し悲しくなった。精液の苦味と生臭さを噛みしめるにつれ、現実に引き戻される。ああ、取り返しのつかないことをしてしまった。

《ゆき!? おーーい》

 考えたくない。放っといてほしい。どうするかなんて決めてない。今からだってタクシーで帰ったほうがいいのだろうか。わからない。Yはシャワーを浴びている。一緒にと誘われたが断った。上の空のゆきを見てYは何かを察したのか、先にバスルームに入った。

《タクシーつかまらなくて。実はもうホテル取っちゃった。ごめん、勝手に》
《そっか、そうだよね。いいよ》
《家のことは心配しないで!》
《せっかくだから一人でゆっくり休んでね》
《そういえばゆき、子どもたちと離れて寝れるの久しぶりじゃない?》
《お酒も飲んでるし疲れてるよね》
《おーーい、ゆき?》
 もうやめて。メッセージなんか送ってこないで! 今は一人の時間が欲しいのに。ああ、もう。
《ありがとう》
《ごめんね色々聞いちゃって!》
《疲れてるよね?》
《じゃあね、ゆき。おやすみ!》
《おやすみ》

 いっそこの素っ気なさすぎる返信にピンと来てほしかった。妻を疑い、問い詰めてほしかった。そんな夫でないことぐらいわかってはいるが、今ここでバレてしまえば楽になれるのに。それなのに、まったく疑うことなく最後まで優しく能天気な夫のことが恨めしい。

 ともあれこれでもう明日まで安心してYとの時間を過ごせることが確定した。確定してしまった。絶対にバレる心配はない。ゆきさえ黙っていれば一生この夜のことが夫に知られることはないのだ。重く沈んでいた心が少し軽くなっていることが、ゆきにはショックだった。なんと身勝手な妻だろう。

 人生の一大事、人妻としてもっとも重い罪であるはずの「不倫」のなんと簡単なことか。


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