初めての社外業務-1
「ーー門井くん、大丈夫？」
オフィスで、眉間にシワを寄せながらパソコンで入力作業をしていると、横から長い指先が見えると同時に声が聞こえた。
そっと置かれたのはお湯に溶かして飲む、甘いカフェラテのスティックだった。
「飯塚さん」
振り返り、悠斗はカフェラテをくれた人物の名前を呼ぶ。
飯塚冴子（いいづかさえこ）。
悠斗より十五歳年上の先輩だ。
真っ黒な髪の毛は、胸元まで伸びてゆるくパーマがかかっている。
髪からは、両耳にフック型で赤いストーンがいくつかついたピアスが覗いて、光っている。
ばっちりとメイクされ、はっきりした顔立ち。たれ目の目元にはほくろがあり、女性的だ。
スーツのジャケットを今は脱いでおり、フリルのついたブラウスにハイウエストの短すぎないスカート。
ジャケットを脱いでいると、かなり細身であることがわかる。
今日は冴子も悠斗同様に残業をしており、オフィスに残っていたらしい。
時刻は十九時半になろうとしている。
「カフェラテありがとうございます」
「何か最近集中できてないんじゃない？大丈夫？」
「そうかもしれません…。あんまり寝られてなくて」
先日の、佳織との卑猥な出来事を毎夜思い出し、自慰行為にふけってしまっていたのだった。
悠斗と冴子は同じチームで仕事をしている。
とはいえ悠斗は元々職場でそんなに口数の多い方ではないし、冴子と仲良く話す、ということはあまりなかった。
そんな悠斗のことを、どうやら冴子の方は気にかけていたらしい。
「これ、商品管理のデータ入力だよね？」
悠斗がパソコンで作業中のファイルを見て、冴子は尋ねる。
ふわり、と甘い香水の香りが悠斗の鼻をつく。その甘い香りに、否応なしにドキドキしてしまった。
冴子は、悠斗のデスクの上にある束になった書類を手に取りパラパラとめくった。
「この付箋が貼ってあるところからは、今、門井くんが作ってるのと違うファイルに入れたらいいんだよね？
この量ならすぐ終わりそうじゃない。手分けしてやっちゃおう。共有ファイルに入ってるもんね、このファイル」
「え、あ…。飯塚さん、帰るところだったんじゃ」
「同じチームの後輩が死にそうな顔してるのに、放っといて帰れないでしょ。この付箋のところから借りるわね」
冴子はそれ以上何も言わず、悠斗が入力しているデータとは別のものだけを取ると悠斗の席とは少し離れた自席に座り、パソコンを開いた。
「ーーん。終わったよ。帰るね」
ばさり、と書類が悠斗のデスクの上に置かれた。
あれから三十分ほど、経った時のことだった。
悠斗が振り返ると、ウエストの辺りがきゅっとしまったジャケットを着ている冴子が立っている。
「わ…。すみません」