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ドッペルゲンガーの恋人/過去からの彼女(官能オカルト連作短編)
【幼馴染 官能小説】

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魔女車掌サリーナの狂乱-6

7
 サリーナを虜囚になったパパとあわせて丸二日になる。
 停車中のオルペウス号の車両の中で、海月は古い戦友でもある鵺と話し込んでいる。それが真面目な話だということは様子からも見て取れた。

「だから言ったでしょ? サリーナはシロだって」

 海月の言葉に、駅員服の鵺は頷く。

「そのようだな。捕虜に父親を確保してから、おかしな素振りは見せなかった。その間、サリーナにはわざとあの捕虜の詳細を何も伝えていなかったが、もしもサリーナが敵方から司令や情報を受け取っていれば、何か怪しい素振りや態度を見せないとおかしい」

 鵺はこれまでの経過からの判断を述べる(黒く爪のある手振りで)。
 つい先日の緊急出撃と空間支持拠点確保ミッションで、コアラのたちの強襲戦闘チームが敵対勢力の戦闘員一名を捕虜にした(その際にサリーナは同行していなかった)。それが事もあろうに、サリーナの父親のロシア人だった。
 調査によれば生前の地上現実世界では、表向きは密輸などもやる商売人で、裏ではロシア政府の諜報機関に所属する情報将校だった男である。日本人の現地妻を貰ってサリーナを生ませて、北海道に家族で定住にする素振りで十数年を過ごしたものの、最終的には死亡を偽装して密出国しているようだ。
 そうなってくると、サリーナにもスパイ容疑がかかってくる。敵対勢力の戦闘チームに父親が所属しているとなれば、やはり疑うしかないし、仮にサリーナ本人に悪気がなくとも脅迫を受ける危険は付き纏う。
 けれども信頼されていた駅の職員メンバーを簡単に「スパイ容疑」扱いで断定するべきなのかどうかは、皆の悩むところだったわけで、今回の場合には既に問題の父親が身柄確保されていることもあって、しばらく経過観察で様子見していたのである。
 幸いなことに、サリーナは白、無実のようだった。
 鵺はホッとした表情ながらも、古い相棒でもある海月に注文する。

「ただ、動揺するかもしれんし、気はつけてやれ。監視とかでなく、その、あんまり気を落とすなよ、とか」

「喜んでるんじゃない? サリーナは親子でずっと一緒だって、はしゃいでたよ」

 海月は鼻で笑って返事をする。
 そしてついでに疑問も述べる。

「でもさ、あのロシア人のオッサンも嬉しそうだったのが。娘に会えて嬉しいのはまだわかるけど、捕虜なのに。最初に捕まったときでも、諦めてる感じで、それほどビビってなかったし」

 鵺は駅員服の肩をすくめるようにして、軽くなった口でベラベラと喋る。

「そりゃよ、なんつったって、ロシア式だからだろ。あの人道主義思想家のトルストイですら、家じゃ亭主関白どころか完全に暴君でケダモノだったって話も聞くし。悪気があろうがなかろうが、素の民族性格は。
 ロシアの監獄とか、強制収容所やら労働キャンプに送られること思えば、どんだけマシかってことさ。しかも常時に可愛い自分の娘が見舞ってくれるんだったら、牢屋の中でも天国同然なんじゃねーの? ドストエフスキーの「罪と罰」のラストとかでも、囚人労働キャンプに不幸な元売春婦の彼女が見舞いで付き添ってくれたとか、完全に爽やかなハッピーエンドだろ、ロシア式の」

 かつてラグナロク破滅終末戦争の世界で、このコンビで弟子の少年に色々と知識や戦技を教えたときのように、二人にはよくある調子の会話だ。

「そんなもんなのかな。でも、サリーナが喜んでくれたのは良かった」

「ふーむ。ま、お前が気が合ったならサリーナとは好きに仲良くやることだ」

 海月の表情の変化を見て取って、鵺は内心にいささか安堵を覚える。
 過去に戦闘のノウハウだの、個人の趣味で歴史なぞの諸々の知識や教訓、ついでに理性主義の哲学なんかは教えることが出来ても、この少年には人として情緒面での成長の機会がどうしても欠けていたのだ。生まれてずっと生物兵器や戦いの道具のような立場だったのだし、仕方がない。
 話している最中に海月の携帯電話が鳴る。

「もしもし?」

 内線電話はサリーナからのもので、泣いている感じだった。
 しばらく話を聞いてから携帯を畳んで、海月が車両出口に歩き出しながら言った。

「メンドくさい。わけわからない、なんかヒス起こしてるっぽい。さっきまであんな喜んでたのに、急に寂しいだの辛いだの悲しいだの」

「めんどくさいのが女と人間ってもんさ」

「女の感情論って意味不明なんだけど」

 それでもサリーナのところへ行こうとするのは、無自覚にも気に懸けているからだろう。これも従来の昔の海月ならばちょっと考えにくい行動ではある。
 鵺は黒い鼻先と金色の瞳でニヤニヤ笑って言った。

「あの娘からしたら一番は「甘えたい」んじゃねえの、お前に」

「虎かライオンにじゃれつかれてる気分だよ」

 虎やライオンはとても凶悪凶暴だが、犬や猫と同様に美しい生き物だ。
 海月は停車車両を出て、サリーナを慰めにメトロの階段を駆け上がって行った。


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