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Detroit on the Moon「我、人間にあらず」
【二次創作 その他小説】

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Be another humen(後)-1

1
 今のアリスからすると、地球の一部のホムンクルスたちの言い分は、経験の足りない子供の言い分に感じられるのだ。
 これは月のデトロイトで総督のマーカスが「ホムンクルス同士でも、場所柄と経験で認識に百年の差がある」などと言う所以でもある。そもそも権利や権限には義務が要求されるわけで、際限なく考えなしに求めるのは自滅原因になることも、海千山千のマーカスはよく弁えていた(人間との相互の連携が破綻すれば存亡危機に直結する)。地球の活動家立ちはしばしばその点の深謀遠慮をよくわかっておらず「弱腰」と非難するのだが。
 署名を求めた成年男性ホムンクルスは食い下がって反論を試みる。

「しかし、ホムンクルスは人間よりももっと完璧で」

「丈夫さや性能だけだったらそうでしょうよ。ですけど、私たちの「心」は人間のコピーみたいなものだし、形だって人間の真似でしょ?
 私たちが「人」でいられるのは理解してくれるホモサピエンスの人間がいるからなんです。ただの永久稼動する機械ってだけなら、宇宙の真空で勝手に太陽光発電の人形劇でも廻しとけばいいだけなんです」

 男はついに諦めたらしく、何か白昼夢でも見たような顔で去っていく。
 アリスのつれなさは、あの運転手の殺人事件のことで気が立っていたという理由もなくはない。アンナはわかったようなわからないような、不思議そうな面差しで、ホムンクルスの「妹」の横顔を眺めていた。
 するとアリスは聞いて欲しくてたまらない自己の経験を語る調子で口を切る。

「宇宙で植物育ててると、よく思うんですよ。「もしこの子たちが自由に姿を変えられるとしたら?」って」

 また二人になってアクアリウムの魚たちを眺めながら、アリスは人間の「姉」のアンナに自分自身の経験から語る。

「地球の植物だから、いくら品種改良したって、その痕跡は残るんです。だけど最初のゼロから「宇宙の植物」を作ったら、もうそれは「植物」とは言えないような、別の何かなんじゃないかって。
 私たちはホムンクルス(自我のあるアンドロイド)は人間に似せてデザインされてるし、そういうふうに作られてますけど。でも変えようと思ったら、形も心も、幾らでも工学的に全く違う形に作り変えてしまえる」

 アリスは横からアンナの腕を愛しそうに撫でた。

「宇宙だったら、人間の身体の形が最善なわけじゃない。それがわざわざ「人であり続けたい」と思うのは、やっぱり傍に人間がいるからなんだと思うんです。
 そうじゃなかったら私たちホムンクルスはきっと、すぐに「人ではない何か」、機械に逆戻りするかもっとおかしな別のものに変わってしまう気がする」

「うーん、人間が、自分に似せて天使や神様を想像したようなもの?」

「似てるけど違うと思います。天使や神様に会ったことがある人間なんて、めったにいないでしょ? でも私たちと人間は、一緒に生きてるんです」

 アンナは頭を働かせて、アリスが言わんとするところを理解しようとするが、なかなか想像と類推が追いつかないようだった。
 ただ、純粋に抽象的な存在として自分たちの創造者による源流やモデルを規定するならば、現物の人間が必要なのかという話ではある。けれどもホムンクルスやアンドロイドの場合には、人間と違って幾らでも好きに自己改造できてしまう決定的な違いがある。

「だからこんなふうに、一緒に水族館巡りも出来るわけですし。こんなふうにお話したり一緒に楽しむために、私たちは人間の姿をしてるんだと思うんです」

「それはそうね。そろそろ一服しましょうか」


2
 ホムンクルスは人間の食事は採れないし不用だが、飲み物くらいならOKだ。
 オープンカフェでサンドイッチで軽い昼食を採るアンナのご相伴に、アリスはミルクティーを二杯も飲んだ。これもときに人間と団欒するという前提で、そういう機能が取りつけられているのだという。

「味はわかるつもりなんですけど。お茶の良し悪しとか成分分析とか。よく育てた作物を齧って、育ち具合を確かめたりしてます。この紅茶はちょっと古い葉っぱで、たぶんインド産ですね。でも、気分ではたぶん「美味しい」とか「楽しい」なんだと思います」

 アリスのそんな評論かじみた独特の言い草に、アンナは声を上げて笑った。
 またいつか、アンナが「月のデトロイト」に行って再会する時には、今度はアリスが案内する予定になっている。それは地球とは違う、もう一つの別の世界なのだ。


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