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ドッペルゲンガーの恋人/過去からの彼女(官能オカルト連作短編)
【幼馴染 官能小説】

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曲者策士な母の企みで?-4

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 そもそも、アヤだってわかっていてやっているのだ。
 今日は留守だから家にいろ、などと電話で話して、サエが来たら応対しろみたいなことまで言っていた。どこか笑うような、企むような息遣いのようなものを感じ取ってしまったのは、実の息子ゆえなのだろうか?
 玄関を開けると、サエは汗ばんだ笑顔でニコッと笑う。汗というよりも、無防備な女の臭いが玲の心を騒がせた。しかもシャツとジャージの格好だから、間近で見ると余計に若く飢えた男の神経を逆撫でし、無意識の次元に誘いかけて挑発するようだ。

「やっ、合格おめでとう! 頑張ったじゃん」

 本心から嬉しそうに、サエは身を寄せてパシッと玲の肩を叩いた。

「ありがとうございます」

 玲も嬉しくなって微笑み返してしまう。
 その二人の足元では、柴犬のミルカがハッハッとパンチング呼吸を荒ぶらせながら、玲を見つめて尾を振っている。犬という動物は親しい人間に触れられたり、目を合わせるのが好きで、それによって愛と信頼の感情を育むのだという。
 少年は身をかがめて犬を撫でかまいながら、心を落ち着けて要点を切り出した。

「上がってきます? 母、いないですけど。コーヒーくらい飲んでったら」

「そうなの?」

 サエは玲の言葉に少し驚いた様子だった。てっきり母がいると思っていたのだろう。
 けれども、次の発言は意表を突いていた。

「帰りはいつ頃って聞いてる? 昨日の昼に「お茶話しよ」って、電話で話したんだけど」

「そうなんですか?」

「どうしたの?」

 きっと驚きが少年の顔に出ていたのだろうが、サエもそれを見て取ったらしい。
 けれどもだいたいの想像はつく。
 母のアヤは、わざと自分と祖父母の留守中に彼女を家に呼んだのだ。そして玲にだけ「留守番してなさい」ときたものだから、何か企んだとしか思えない。この分ではサエ自身も何かしらグルなのかもしれない。

「?」

 きっと不審そうな目をしていたせいなのか、サエも不思議そうな表情を浮かべる。
 玲は漠然とサエを「白」だと判断した。おそらく彼女自身も、アヤの(たぶん善意と悪戯心からの)韜晦と策略に嵌められたのではないだろうか。それにサエの素朴な性格からしても、わざと狙って騙してくるということは考えにくいだろう。
 ひとまずは当たり障りなく応じて、部屋に通すことにしようと思った。

「母さん、きっと忘れてるか勘違いしてたんですよ。天文台で観測がどうとかで、今晩帰ってこないかもですし、留守番してろって。ちょっと電話かけて確かめてみます。とりあえず、上がってくださいよ」

 玲はごく普通に話しながら、自分の「母に電話して確かめてみる」の台詞での、サエの反応と態度をさりげなく観察していた。彼女は特に嫌がるでもなく、いつも通りの平然とした調子で「あ、うん」と答える。
 まず塀のある縁側の方の庭先にミルカを繋いで、専用の器で水を飲ませてやる。
 そしてそのまま上がった和室でサエにアイスコーヒーを出してから、電話をかけてみる。

(母さん?)

(んー? 玲? お昼くらい、自分でどうにかなさいよ)

(いや、そーじゃなくって。サエさん、家に呼んだの忘れてるんじゃない?)

 率直に指摘すると、電話の向こうで笑ったような気配がした。
 最初からどこか惚けた調子だった気もするが。

(うーん、代わってくれる?)

 まるで鼻唄のような母の命令でコードレスの受話器を差し出すと、サエはややキョトンとしながらも受け取った。

(あ、アヤ? ごめん。ほら、昨日の話でちょっと話してたんで本気で押しかけちゃった)

(うーん、いんやー、こっちこそ。アハハッ、すっかり忘れてたけど、アイツを代わりに置いといたから、もー焼くなり煮るなり好きに料理しちゃって。サエさんさえ嫌じゃなかったら、くつろいで一休みでも一晩休みでもしてって)

 やたらと能天気でわざとらしい、しかも楽しげな母の声は、通話を隣りで聞いている玲にも筒抜けでもある。
 おまけにトーンを高くして、息子にも聞こえるように言いつけてくる。

(あ、ちょっと玲の方に受話器向けて。 玲! お昼でも、なんだったら晩御飯もでも、冷蔵庫と戸棚とか台所にあるものでテキトーに食べなさい。冷凍でもパスタでも、二人分くらいあるでしょ? あんまりサエさんに手間かけたらダメよ? あと服とか、干してある私のとか、アンタのとかで適当にかしてあげて)

 ここまでくれば確信犯だとサエも察しただろう。
 子供の頃から招いたり招かれたりしたことは数知れないのだから。
 そしてアヤは、サエがそれを喜んでいることを知っているのだ。ただでさえ長い親友以上の関係で義理の姉妹のようなものだし、夫だけでなく子供もいない独身のサエにとっては、玲と触れ合って遊ぶのは無上の楽しみだったのだろう。
 けれども今回ばかりは少し特殊なケースだった。

(あ、だけど、ゴムはないけど)

 アヤが思い出したように電話で付け加えた言葉は、サエにも玲にも聞こえていた。

(その辺は、適当に好きにして。うん、よろー(よろしく))

 能天気で無責任に納得した言葉で会話を締めくくり、一方的に通話が切れてしまう。
 ゴムといえばコンドームの隠語、ジョークとしてはあまりに直球で生々しい。
 玲とサエは顔を見合わせてたじろいでしまうのだった。


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