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ドッペルゲンガーの恋人/過去からの彼女(官能オカルト連作短編)
【幼馴染 官能小説】

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曲者策士な母の企みで?-1

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 読み慣れたブルーバックス新書の科学本、その名も「元素辞典」。
 これは玲(れい)が中学生になったときに、母(二宮アヤ)の親友で「義姉」でもあるらしいサエさん(三沢紗枝)が誕生日プレゼントに買ってくれたものだ。
 学者家系でつい先日に天文学の助教授になった母のアヤと、自衛官の娘で活動的なサエさんが親友以上の関係になったのは、母の兄がサエの交際相手だったのがキッカケなのだそうだ。母の兄が亡くなってからも友情は続き、お互いを義理の姉妹と見做していることもあって、家族ぐるみの付き合いで随分可愛がって貰った。

 本当の親戚の伯母さんみたいなもので、父がいない二宮玲(れい)はインドア派の母の替わりに外遊びの相手をして貰うことも多かったのだ。キャッチボールだのバトミントンだの、釣りやスキーの指南もサエさんの手ほどきだし、その父に当たる自衛官の小父さんと一緒にキャンプ場に連れて行ってもらったこともある。
 不運にも外国人犯罪者のテロに巻き込まれ、そのせいで身体に大きな傷がついたことに引け目を感じたのか、サエさんは婚期を逃してしまった事情がある。だから彼女からすれば余計に、それこそ元恋人の妹の娘が、我が子のように愛しかったのかもしれない。

(サエさん、しばらく会ってないや)

 現在はようやく受験生活を終えて、大学の入学試験にパスしたところだ。
 少年時代から元素だの化学関係の事柄に関心が強かったのだけれども、普通に理学部の化学専攻に行っても、かえって就職などで不利になる惧れがあった。それに実用的な問題にも興味があったから、結果の選択は薬学部ということになる。
 もしも専門分野の勉強をもっとしたければ大学院の修士過程に進学すれば良いし、病院か企業の研究職に就いてもいい。腹案としては海外の薬品・医療器具やら非認可製薬のブローカーにでもなって、一山当ててやれといった気分もなくはない(合法ゾーンの範囲で立ち回れば世の中にも有用で、なまじっか麻薬なんか売るより手堅いビジネスだろう)。

(きっとアンタは「ひとかど」になるわ。見た目はお兄ちゃんみたいにおとなしそうなのに、私に似て凄く気が強いし蛇みたいに執念深いもの。ふふふっ! でもま、途中で下手打ってくたばらないように注意はしなさい)

 いまだにシングルマザーの怜悧・妖艶な美女で通っている母はそんなふうに、よく昔に亡くなったはずの「兄」を引き合いに出す。まるでそれが玲の父親ででもあるかのように。彼は母が父親の話をしているのを聞いたことがなく、その「兄」と近親相姦でもして自分が生まれたのではないかという気はする。ただ、その母の兄(伯父)が若くして亡くなった歳と自分の生まれた歳を計算すると勘定が合わないのが難点なのだ。

(ひょっとして冷凍した精子で人工授精とか?)

 そのことを母に問いただすと「いい勘してるわね」なぞと、意味ありげな微笑を浮かべるものだから、呆気にとられたものだ。母が言うには「つまらない男の子供なんて、どうして私が産まなくちゃいけないの?」と平然と言ってのけたのだ。
 まったくもって、愛しくも怖ろしい母だった。
 ただ、自分が母や母の兄に似ていることは自他共に認める事実だった。
 そのことはサエさんも褒めるように指摘していて、なんだかとても嬉しそうだった。おかげで玲としても、自分が望まれて認められて生まれてきた気がして、悪い意味で深く考えて苦悩することからも免れたのだと思う。むしろ自分が「普通でない」ことに密かな誇りさえ感じていたほどだ。
 ひとまずの目標は入学した大学の薬学部で、薬学と化学の知識を詰め込めるだけ詰め込み、出来る範囲で製薬業界や世界の医療事情なども調べることだった。
 けれども、この春休みに彼の頭を占めていたのは、もっと別の卑近な事柄だった。

(合格したらご褒美あげる)

 サエさんの言葉が少年を焚きつける一因となったことは否めない。
 およそ彼女からすれば、さほど深い意味はなかったのだろうが、年上・年増とはいえ初恋めいた欲情を抱く相手から言われたら気が気でなくなるだろう。ましてや盛りのつき始めで歯止めの利かない年頃なのだ。
 問題はどうやって切り出すか。
 それに玲は知っている。母とサエさんの秘められた関係を。
 二人は長い同性愛の関係なのだ。


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