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ドッペルゲンガーの恋人/過去からの彼女(官能オカルト連作短編)
【幼馴染 官能小説】

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影武者ドッペルゲンガー-4

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 「どう? 納得した?」

 一本とったぞと小さく勝ち誇る莉亜に、少年はまだ考え込むような様子で目線を彷徨わせているのだった。そしてまた電話を取り出す。
 どうやら通話ボタンを押したようだった。かけた先は決まっている。
 ややあって声が聞こえた。
 それはよく知っているはずなのに、慣れない変な調子の声。普通自分自身の声は喋っている身体への振動で伝わる分も混ざるので、純粋な声・録音音声などとは少し違って聞こえているんだとか?

(電話、かわって)

 莉亜は少年から渡された携帯電話を受け取って耳につける。

(せっかくだから一つ教えてよ。あのサイトでのリクエストだとまだ処女のはずよね? そんで私より健康で抱き心地もいい感じなんでしょ? だったらさー、リョウの性欲解消とかやってあげてくれない? もうじき死んじゃうにしたって、まだ自分が生きてるうちにソイツを他所の女にとられるのなんて、そんなの絶対に厭だし許せないからさー。私が一番「イイ」ってわからせてやってよね)

 あまりにもストレートだった。しかもやや投げやりで居直ってぞんざいですらある。しかもパラレルの同一人物同士であるだけに呵責がない。

「それって」

(ふーん、カマトトぶってんの? だけどさ、あなただってそういう「願望」がなかったら、あの変な地下鉄とやらでこっちの世界に来たり出来てないよね? そんな遠慮しなくても、リョウもゼッタイOKだと思うけど。何回もフェラまではしたことあるし、触ったりとかはしょっちゅうだもん。でも、私がこんなんだからずっと我慢してるみたいで、なんだか見てて可哀想になってくるのよね。アハハ)

 彼女が言う「こんなの」とは、きっと重い病状のことなのだろう。
 そしてそのあられもない会話は隣りのリョウにも聞こえたらしく、心の準備すらない淫靡な関係の暴露にドギマギしているようだった。

(フェラって?)

 莉亜は以前に見た夢のことが頭に蘇り、頬と首筋がカッと火照ってくるようだった。あれはたぶん、こちらの世界の莉亜、もう一人の自分の記憶が寝ている間にテレパシーでの共有のように伝播したのだろう。
 ほとんど忘れていた夢の中での出来事が、フラッシュバックのように、アルバムを捲るようにして、断片的ながらも鮮明に思い起こされてしまう。

(あんなこと、やってたの?)

 つい目の前のピュアそうで少し華奢な少年をマジマジと見てしまうのだった。

(うーむ、飛躍ありすぎ。妄想どうりって言えば近いかもだけど、だけどこれじゃああんまり。とりあえず、もうちょっと、この世界の私から事情とかの話を)

 訊こうと思ったら、そこで「よろしくやって、じゃあね」などと電話が一方的に切れてしまう。どうやらお互いにコピーのようなパラレル(並行)世界の同一人物であるだけに、こちらの莉亜の思考をや質問を察知して逃げたようだ。
 かけなおそうかどうかしばし迷ったものの、無駄な気がしてひとまず諦める。
 そんなこと(フェラ行為)までやっていて、まだ童貞云々というのも幾らか変な気はしたけれども、おそらくはこの世界の莉亜は最後まで性行為するには身体と病気の具合が悪過ぎるのかもしれない。病院に缶詰では、ちょっとしたエッチはできても処女喪失まではやり辛いだろう。
 それに「健康で抱き心地がいいだろう」などという発言からも、たぶんこの世界の莉亜は病気で身体が痩せてしまったりして、その面でも自信がなかったのかもしれない。だからこそ「より状態の良い」別世界の自分自身を求めていた(女としての好きな男の子への見栄というものだ)。お互いに性格がおよそ同じであるだけに想像できてしまう。
 まだ生きているうちに、他所の女に取られるよりはせめて、ということなのだろう。

(こういうのって「据え膳」とか言うんだっけ?)

 通常は男が女に対して言う喩えだが、逆があってもおかしくはあるまい。
 彼女としてはせっかくの切実な申し出と機会を無碍にはできないし、このリョウという名の少年や恋愛行為への興味や関心はある。
 ただ、それでも気持ちの切り替えや決意にはまだ少しばかりの時間や猶予が必要なのも真実。いくら夢の中で記憶や感情を共有して「予習」はしていても、まだまだ繊細な年頃の乙女として「はい、そうですか」と即座に決断するのは難しくもあった。


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