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ドッペルゲンガーの恋人/過去からの彼女(官能オカルト連作短編)
【幼馴染 官能小説】

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影武者ドッペルゲンガー-2

2
 異変が起きたのは先に車両を降りてサエと分かれてからだった。
 莉亜の家は駅の近くのマンションだし、まだ時間もさして遅くはないし雨も降っては居ない。だからサエさんは古賀家の母親に「一緒に遊んでました、今電車を降りましたよ」などと世間話がてら報告メールしていたようだが、誰も心配していなかった。
 されども、この手の異変はいついかなるときに起きてもおかしくはなかったのだ。

(あれ?)

 まず最初にホームに人気がなさ過ぎることに気がついた。
 それも「まばら」ではなく、全く人気がないのは不自然極まりないことだった。
 知っているはずの家の最寄り駅とほとんど同じであるのに、どこか違う。
 極めつけには地上に出る階段が、途中の踊り場でシャッターを下ろされて、通路を封鎖されてしまっていたのである。

(うわ、どうしたんだろ?)

 胸騒ぎがしたけれど、その悪い予感は的中した。
 いったんにホームのコンコースに下りると、白い影が二つ三つ揺らめいている。吹いてくる風に混じってイカのような酷く生臭い臭いがしたし、それが普通の人間ではないらしいことは薄々と分かった。
 急速に胸中に恐怖が募ったが、不安に駆られて背後を見れば階段上り口のシャッターまでが閉まってしまっているのだ。

(嘘っ! さっきまで開いていたのに!)
 莉亜は肩と背中をこわばらせ、本能で足がすくむ思いだった。
 そして白い影がユラユラと揺れながら、莉亜の方に向けて近づいてくるようだ。
 つい後ずさりしてシャッターに背中をぶつけてしまう。
 しかも遠くの中空に、今度は黒い影。

(あれって)

 それはキラキラ光る大鎌を持っているようだ。
 一目でわかる、それが死神だと。

「ヒッ!」

 喉首を締め上げられたような、恐怖と驚愕の音色が莉亜の口から零れた。
 微かな声音だったが、その精神ショックは伝わったようだった。
 どうにも薄暗い空中、天井辺りにいる死神は莉亜の存在に気づいたらしい。

(こんなのって!)

 あまりの成り行きの非現実的な残酷さに、莉亜は気が遠くなりかける。
 死神が大鎌を煌かせて微笑んだようだった。
 そのとき。
 突然に真っ暗な線路のトンネルの奥に光が輝き、三両編成のどこか不思議な地下鉄車両が滑り込んできたのである。
 それは通常にはありえない速度で流れ込み、しなやかな急ブレーキをかけて停車する。
 なんだか全体的に装甲車を連想させる頑強さ。どうやら窓には下ろせる金属シャッターがあるようで、屋根の上には機関銃のようなものまでが着いている。小さな小動物めいたものが動いているようで、一瞬だけライフル銃を持ったコアラの姿が頭に浮かんだ。
 軽やかな銃声が響き、車両に近寄ろうとした白い影・黒い影が、次々に破裂するように撃ち倒されていく。ハードボイルドで男前なテノールの声が屋根の上から聞こえた。

「おい、早くお客さんを拾え!」

 見えた。地下鉄車両の上から狙撃する、警察特殊部隊のような服を着たコアラの勇姿。

「ごおおっ! 汚らしいバーベキューだぜ、ごおおおッ!」

 そのすぐ横で野獣の如き咆哮を上げ、反対側に無慈悲なまでの火炎放射をかけているのは、どうやら同じ戦闘服を着用のタスマニアンデビルであるらしい。あとで小耳に挟んだ事情に寄れば、そのときの客の莉亜がコメントでオーストラリア関係の発言をしていたため、彼らはゲスト参戦での友情出演だったのだそうだが。
 しかも一番莉亜に近い扉だけが開き、中から真ん丸い眼鏡をかけた車掌らしき女が飛び出してくる。まだ若く、莉亜と比べても同い年くらいの女の子だった。
 女車掌はペンライトを取り出し、莉亜に迫っていた死神に熾烈なレーザーを照射する。

「えいっ! 悪霊退散ビームっ! この子はうちのお客さんなんだから、横取りさんは願い下げ、お引取り願いますっ!」

 そして牽制しながら、莉亜に「早く乗って!」と促す。
 どの途に背に腹は替えられないものだから、彼女としても異存はない。怪しいことには怪しかったが、それでも通常の誘拐だの詐欺だのの手口ではおよそなく、この女車掌が救出に来てくれたのであるとは直感的に確信できたからだ。

(ひょっとして、この電車って?)
 ふと脳裏を過ぎっていたのは、いつぞやの地下鉄オカルトのサイトのことだった。
 莉亜の後からすぐに、眼鏡の女車掌が飛び乗ってくる。妙に手際の良い彼女は手動でドアを閉め、運転席に叫んだ。

「鵺(ぬえ)さんっ!」

「オーライ、発車進行!」

 奇妙な地下鉄車両が動き出す。
 その運転座席の後姿に目を凝らせば、なんだか人間ではないようだった。
 そして振り返った顔は金色の瞳のレッサーパンダだった。
 吃驚顔の莉亜に眼鏡キュートの女車掌が説明する。

「あ、そちらは運転手の鵺(ぬえ)さんです。昔は日本にも大型のレッサーパンダがいたんだそうで、古文とか伝説に出てくる鵺のモデルなんだそうですよ」

 彼女の名札には「車掌代理・途野磨乃」とあった。
 それから磨乃は威儀を正して一礼する。

「さぁて。古賀莉亜様でいらっしゃいますね? お客様。本日は当車両のご利用、ありがとうございます。お迎えが遅くなって申し訳ありませんが、私どもは平行するパラレルな世界への旅と交通を運行させて頂いております」

 丁重な物腰は義務的なものというよりも、どこか楽しげで充実して、そういうホスト(もてなし側)としての役回りや立場を遊戯として純粋に楽しんでいる気配がある。
 この車掌代理の途野磨乃の要約すれば、世の人間の切なる願いをかなえるために、平行して存在するパラレルワールドへの旅をエスコートする地下鉄なのだとか。つまり莉亜はあのサイトから書き込んで応募したことで、その切符を手にしたのだそうだ。


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