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妻を他人に
【熟女/人妻 官能小説】

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深夜のオフィスで (3)-4

 その瞬間、時間が停止した。

 イヤホンの向こうは静まり返り、私の脳も活動を停止、いや拒否している。言葉の意味を認識してはいけないと理性が警報を発しているが、心はすでにずしんと重い。不快な感情がじわりと広がり沁み渡る。Yの言葉の残響が頭から離れない。「だって、俺とゆきさん……昔エッチしたじゃないですか?」――。

 長い沈黙の後、ゆきがつぶやいた。
「もう……忘れてよ……」
 絞り出すような声。聞いていて辛い。胸が苦しい。
「忘れられません。八年前のあの日々は、僕の宝物です」
「……私……困るから……」

 悲しげなゆきの声が、「昔エッチした」ことが事実であると物語っている。
 嘘だと思いたい。だって本当だとしたら、ゆきはずっと秘密を隠し続けていたことになる。八年間も。ずっと変わらず見せてくれていたあの笑顔はなんだったのか? 八年間、変わった様子は何一つなかったのに。しかも「日々」とは? 一夜限りの過ちではないのか。

「あのときは忘れますって言ってくれたじゃん……」
「できませんでした。ごめんなさい……」

 八年前といえばゆきが二人目の育児休暇を終え職場復帰を果たしたころである。慌ただしくも幸せな毎日を送っていた。一人目の妊娠から少しずつ減っていた夫婦の営みはすでに完全になくなっていたが、この時期は仕方がないものと諦めていた。三十という女性として小さくはない峠を超えますます熟れていく人妻の身体を横目に、悶々としなかったわけではない。たまにはと夜の誘いをかける私に、ゆきは「ごめんね、疲れてるから」と背を向け眠りについた。
 残念ではあったが、私も転職したばかりで何かと妻に負担をかけていた負い目があったため強くは求めなかった。なによりセックス以外の面では、夫婦二人、子二人の生活はにぎやかで楽しかった。私とゆきは文字通り夫婦二人三脚で助け合い、毎日を過ごしていた。その「日々」の裏で、ゆきは――。
 八年間毎日見せてくれたゆきの屈託のない笑顔が脳裏に浮かび、消えた。

 イヤホンから、キスの音が聞こえてきた。
 音は次第に長く、濃厚になっていく。
 拒否の言葉も、すでに弱々しい。

「パパ、何聴いてるの?」

 後ろから不意に声がして、文字通り飛び上がって驚いた。振り向くとゆきが立っていた。

  *

 火照った身体を慰めるため、トイレに入った。

 八年前愛し合った男と今日また結ばれた。生々しい余韻が、まだくっきり身体の芯まで残っている。帰宅後夫と体を重ねても上書きされることなく、男の体温が、匂いが、息遣いが、そして彼の男性自身の脈動が、ゆきに刻みつけられた。夫以外の男性の感触に包まれ貫かれながら、ゆきは夫に抱かれた。
「パパ……Yくんとエッチした感覚が抜けないの……」
 正直に夫に吐露した。夫はゆきの切ない裏切りの告白を受け止めてくれる。夫を傷つけてしまうのはわかっている。でも止められない。
「ごめんなさい」
 背徳感に気が狂いそうになり、何度もオーガズムを得た。夫婦は泣きながら同時に高みに達し、夫の精が妻の口内へ放たれた。いつにもまして濃厚でむせ返るような大量の愛の証を口で受け止めながら、夫への申し訳無さでまた涙が溢れてきた。こんな女を愛してくれる夫には感謝しかない。ゆきだって心から愛している。それは間違いない。

 それなのに――。
 セックスを終え眠りにつこうとするが寝付けない。夫の精液を飲み干してすぐ、ゆきの心をふたたび支配したのは今日久しぶりに味わったYの精液の匂いだった。ゆきは戸惑った。

 八年前、ゆきはその男のことが好きだった。自らの心の中にたしかに存在する浮気心を当時は認めたくなかったが、振り返れば「好きだった」としかいいようがない。だから抱かれた。抱かれて、悩んだ。悩むほどには、ゆきは夫のこともきちんと愛していた。宙ぶらりんの気持ちのまま短期間のうちに幾度も逢瀬を重ね、そのたびに後悔し、しかし止められず、不適切な関係はYが海外赴任でゆきの元を離れるまで続いた。関係が終了してホッとした反面、夫への申し訳なさはその後も続き、夜の誘いに素直に応じることができなくなった。二人目のこの出産後、すでに年単位に及んでいた夫婦のセックスレスはその後もしばらく続くことになる。

 何度も寝返りをうつ。
 下半身で疼く掻痒感は収まらぬどころか、どうにか始末をつけぬことには眠れそうにないところまで高まってしまった。目を閉じれば思い出すのは今日のYとの行為、そして八年前の行為。二つの時間軸の忘れられぬ営みが脳裏をめぐり混ざり合って押し寄せる。
 ゆきは細い指先をパジャマのズボンの中に差し入れ、ショーツの上からぷっくり膨れた股間部分を押してみた。


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