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おとなの昔話〜権兵衛さんと狸〜
【ファンタジー 官能小説】

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権兵衛さんと狸-1


 昔々、とある山あいの小屋に権兵衛さんと言うお百姓さんが住んでおりました。
 権兵衛さんはまだ二十五歳ですが数年前に両親を相次いで亡くしてからと言うもの独りで暮らしながら代々受け継いできた畑を耕しています。
 ここにも元はそこそこの集落があったのですが、斜面を切り開いて作った畑は水やりも一苦労、泉から天秤棒で水桶を担いで登るしかありません、若い者はきつい仕事を嫌って江戸に出て行ってしまい、もうこの集落に住んでいるのは権兵衛さん一人きりになってしまっています。
 ここの所日照りが続いているので、今日も畑に何度も水を運び、クタクタになって家に戻ろうとしていると、道端の茂みからガサゴソと音がするではありませんか。

「なんだべ……おや、狸でねぇか」
 見れば一匹の狸が罠にかかってもがいていました。
「この辺りに猟師はいねぇし……ふもとの村の子供が仕掛けたんだべか……」
 罠は強いばねで鉄の歯を動物の脚に食い込ませる恐ろしいものではなく、木の枝をばねにして藁縄の輪っかで動物の脚を絡めとるだけのもの、猟師ならばこんな罠は仕掛けません、ですが狸はまだ小さくてそんな罠でも自分で外すことが出来ないでいました。
「まだ子供でねぇか、可哀想に……ほら、外してやったから逃げな、もうこんな罠にかかるんじゃねぇぞ」
 権兵衛さんが縄を外してやると狸は走り出しましたが、少し離れると権兵衛さんの方をじっと見ています。
「礼なんぞいいから、早くおとっつぁん、おっかさんの所へ帰ぇんな」
 権兵衛さんがそう言うと、狸はその言葉を理解したかのように走って行きました。
 何度も何度も振り返りながら……。

 その晩のこと、権兵衛さんが床に入ろうとしていると戸を叩く者がいます。
「誰だべ、こんな夜更けに……それどころか人が来るのも久しぶりだけんど……」
 戸を開けてみますと、月明かりの中、娘がひとりで立っていました。
 背丈は八つ、九つくらいの子供のようですが、顔立ちはもっと年嵩の、そう、十二、三の娘のようにも見えます、何となく不思議な感じの娘です。
「親はどうした? え? ひとりか? こんな夜更けにどうしただ? 子供がひとりで山道を歩いちゃ危ねぇでねぇか、まあ、ともかく家にへぇんな」
 権兵衛さんは娘を招き入れると、熾きにしてあった囲炉裏に柴をくべました。
 火が熾り、辺りが明るくなると、娘が寝巻のような浴衣しか着ていないことに気づきます。
「もう秋も深くなって来ただよ、そったら恰好で寒くはねぇのか? ウチにゃこんなもんしかねぇけんども……」
 権兵衛さんが自分の野良着を着せかけてやると、娘はにっこりと微笑みます」
「やっぱりお優しい方なんですね」
「やっぱりってどういうこった? おらはお前ぇに見覚えがねぇけんども……どこかで会っただか?」
「夕方、山道で」
「今日か? 今日は誰にも会ってねぇけんども……」
「罠にかかっていたところを助けていただきました」
「罠に? ああ、そういえば狸を一匹助けたけんど……」
「私はその狸でございます」
「へ?」
 娘の顔をよく見ると、丸っこい輪郭、目尻の下がった大きな目、ちょっと上を向いた丸く小さな鼻、小ぶりの唇……いわゆる『たぬき顔』です。
 そしてそれは正に権兵衛さんの好みでもあるのです。
「そうか、狸は化けると言うからな、お……お前ぇ、狸が化けてるだか?」
「はい」
 化けると言えば狐もそうですが、狐の場合はたいてい色っぽい女に化けますし化け方ももっと上手、狸っぽさが色濃く残ってしまう辺り、狸の方が下手ですがその分愛嬌もあります。
「で、おらに何の用だべ?」
「ご恩返しに参りました」
「そったら大したことをしたわけでもねぇだよ、縄を外してやっただけだ」
「でも、あなた様に外していただかなかったら、山犬に食べられていたかも知れませんから」
「ああ、まあ、それはそうかも知れねぇが……」
「あなた様はあたしを狸汁にして食べてしまおうともされませんでした」
「ああ、まあ、確かにそうだけんども」
「村の子供に捕まった仲間は大抵狸汁に……」
「まあ、そのつもりで仕掛けるだからなぁ」
「ですから、あなた様は命の恩人でございます」
「そうけぇ?……じゃぁ、ちょっくら頼みを聞いて貰うべぇか」
「何なりと」
「今日は天秤棒で水桶を担いで畑と泉を何度も行ったり来たりしたんで、肩が張ってるだ、ちょっくら揉んで貰えるとありがてぇ」
「お安い御用でございます……では失礼して……いかがですか?」


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