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隠し部屋
【歴史物 官能小説】

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隠し部屋-3

3.

「こちらでございます」
「こんなところに隠し戸があるとはね、ずいぶん通ったつもりだったがちっとも知らなかった」
「知られるようなら隠し戸になりませんからね」
 廊下の突き当り、行燈部屋に入るとすぐのところの壁がくるりと回り、梯子が現れる。

「ほう……」
 お駒に続いて梯子を登りきると、そこには思いの他こぎれいな部屋があった。
「おっかけ膳を運ばせますので、ごゆるりと」
 お駒がそう言い残して下がって行くと、吉兵衛は改めて部屋の様子を眺めてみる。
 屋根勾配なりになっているものの野地板は剥き出しではなく、きちんと天井板が張られている、床には畳が敷き詰められ、壁も聚楽塗になっていて、床の間まで設えられている、佳の川の部屋よりも立派なくらいだ。
 そして解せないのが妻壁に嵌っている障子、外から見る限りそんなものはなかったように思える。
 吉兵衛は立ち上がって障子を開けてみた。
「なるほど……」
 障子の外は一間ほどの幅で簀の子が敷き詰められている、おそらくその下は板葺きの屋根になっているのだろう、そして本来の妻壁には大きめの格子が嵌っている、外から見れば小屋裏の息抜きにしか見えないだろう、そして簀の子には鉢植えまで置かれていて、ちょっとした坪庭だ。
 ひとしきり部屋を見て回ったところに、若い衆が膳を運んで来た。
 吉兵衛が手酌で一杯やっていると、トントンと梯子を上ってくる音。
「ようこそおいでくんなまし」
 今宵の相方となる遊女が手をついて挨拶した。
「お前は……」
 吉兵衛はその娘に見覚えがあった、佳の川の身の回りの世話をしていた禿(かむろ)だ。
 吉兵衛が最後にこの楼に登(あが)ったのは一年ほども前のことになる、その頃はまだ上州から売られて来たばかりで十だと言っていた、幼いなりに器量よしで佳の川も大きくなったら別嬪になるよと言っていたし、吉兵衛もそう思っていた。
 裾の短い藍色の着物、裾から覗いている襦袢は緋色、前髪を切りそろえたおかっぱ頭は一年前と変わらないが、ようやく肩にかかるくらいだった髪は乳の上辺りまで伸びている。
 目尻に紅をさす化粧は一年前と変わらないが、少し顔がほっそりとしたこともあり、切れ長の目が際立つ。
(ほう……少し見ないうちに随分と……)
 まだ十一とは言え、そこはかとない色香を感じさせるようになっているが、それは少し成長したからなのか、それとも自分が今宵の相方として見ているからなのか……。
「憶えていてくれんしたのざんすね」
 一年前はまだ廓言葉が身についておらず上州の訛りがあってそれも可愛らしかったが、おいらん言葉がすっかり身についたようでこの里の女になっていることを思わせる。
「ああ、名前は何と言ったかな……待てよ……たしかお紺だったな」
「さいざんす、憶えていて頂けて嬉しゅうござんす」
「お前が今宵の相方なのだな?」
「幼な過ぎざんしょうか?」
「……何と言ったら良いのやらわからんが、一年前、あと六、七年したらお前の水揚げをしたいものだとふと思ったものだが……」
「あいにく、あちきはもう生娘では……」
「そうなのか……」
 吉兵衛は少し口惜しい気がした、だがこの小さな娘を水揚げして女にしてやって欲しいと言われても躊躇しただろうとも思う、だが小さくとも男を知っている体であるというのなら幾分気は楽だ、それでも少しばかり後ろめたさはあるが……。
「そんなところでかしこまっていないで、側に来ておくれ」
「あい」
 立ち上がったお紺を改めて眺めてみる。
 背丈は四尺そこそこだろうか、吉兵衛はかなり大柄な方で五尺七寸ある、並んで立てば鳩尾くらいまでしかないだろう、体つきは華奢で、どこまでが首でどこからが肩なのかと思うほどのなで肩。
「おひとつ」
「うん」
 小さくともお酌をするしぐさはもう堂に入ったものだ。
「お前は?」
「少しだけ飲んだことはござんすが、目を回してしまいやした」
「ははは、その体ではな……」
 単に酒のことを言っただけのつもりだったが、口にしてみると改めてお紺の小ささに思いが及ぶ。
「煙草もまだだめか?」
「いえ……」
 お紺はそう言って煙管を点けて渡してくれる、だが火を点けるために咥えたまでで、吸い込んではいない。
「初めてこれをした時も目を回してしまいやした」
 そう言って笑う……そんな子供を相手にしようとしているのだ……改めてそう思うと後ろめたい心地がするが、それも刺激になっているのか股間がムズムズするのも感じてしまう。
「もっと側に寄っておくれ」
 そう言うとお紺は軽くしなだれかかって来る、吉兵衛はその肩を抱いた。
 なんとも華奢な抱き心地……佳の川も華奢な方だったが段違い、片腕にすっぽりと収まってしまいそうだ……昼間、縁側か何かでこうしたとしても、可愛らしい子供だとしか思わないのだろうが、夜、吉原遊郭の隠し部屋で、行燈の揺れる灯りの中でだと違った心持がする。
 ましてお紺は今宵の相方として、つまりは抱かれるためにこうしているのだ、吉兵衛の中の『男』が本能をさらけ出そうとする。
「ちょっとだけ待っておくんなさいまし」
 お紺はそう言うと吉兵衛の腕からすり抜けて立上り、帯を解き始めた。
 あくまで華奢な肩から着物が滑り落ちると、緋色の襦袢が現れる。
 帯を解いたことで胴の細さもはっきりとわかる、この中にはらわたが一通り揃っているとは思えないほどだ、そして胸もまだまるで膨らんでいないのが見て取れる。
 襦袢姿になったお紺が改めてしなだれかかって来ると、吉兵衛は腰に手を回してぐっと抱き寄せた。
 華奢な腰つきを柳腰と言うが、柳どころか葦のように細い。
 その儚いとすら言えそうな体に、吉兵衛はその先に進むことを躊躇してしまうが、それを察したのか、お紺は吉兵衛の股間にそっと手を伸ばして来た。



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