展示会-1
翌週の土曜日、野田は国立市まで出向き、展示会に行った。
入場料などはなく、高校生の作品展示ということもあって、来客もまばらだった。
館内に入って、絵を眺める。
作者名に、「中林美緒」と書かれた絵を見つけた。
正直、絵のことは分からない野田には、それが上手なのか下手なのかは分からない。
絵の前に立って眺めていると、小さな声で、
『野田さん？』
と、声を掛けられた。
振り返ると、先日、美緒を連れて来た、顧問の沙織だった。
今日も、スーツを着ている。
スーツ姿の沙織は、なかなか綺麗である。
『どうですか、生徒たちの絵は？』
と、沙織が聞く。
『正直、上手いとか下手とかは分からないです。でも、好きか嫌いかと聞かれたら、好きな絵です。』
と、野田が答える。
＜みんな、上手ですね＞
などと、お世辞を言わない野田に、沙織は好感を持った。
しばらく立ち話をした後、沙織が切り出す。
『今日、この後、お時間ありませんか？』
と、沙織が聞いてくる。
『あと30分で展示会が終わるので、それから、良かったら、私の絵も見てもらえませんか？』
『え？ 先生も絵を描いてるんですか？』
美術の顧問とはいえ、形だけの顧問ではなく、本当に美術が好きだから顧問をやっているのだろう。
30分後、館内にある喫茶室で、沙織の絵を見せてもらう。
デッサンの段階の絵ばかりだが、野田には、分からない。
ただ、素人が描いた絵ではないことぐらいは分かる。
野田は、食い入るように、沙織の絵を眺める。
野田は特にコメントはしなかったが、食い入るように絵を見る野田の仕草に、沙織は十分満足だった。
『今日は、わざわざ展示会に来ていただき、ありがとうございました。』
と、沙織が言う。
『いえ、暇だったので、これも何かの縁ですし。』
『野田さんは、絵に興味は？』
『仕事柄、図面を書くのは得意ですが、絵の方はさっぱり・・・（笑）』
などと、話が弾む。
『先日、お邪魔した時に思ったのですが、野田さんは一人暮らしなんですか？』
『ええ、気ままな一人暮らしです。』
『立ち入ったことをお聞きして、申し訳ありません。でも、私と一緒ですね。』
『え、先生、そんなお綺麗なのに、独身なんですか？』
『全然、綺麗じゃないです。年齢も40歳を越えましたし、もう結婚はあきらめています。』
『勿体ないですよ。 そんな綺麗なのに、、、。』
野田は、バツ１の独身ということにしてある。
聞くと、沙織は、結婚の経験もなく、ずっと独身のままのようだ。
結局、小１時間、喫茶室で話し込み、沙織と別れる。
別れ際、
『また野田さんに絵を見てもらいたいです。』
と、沙織が言う。
『ええ、構いませんよ。気が向いたら、私の家に来てください。』
と、野田が返す。
Season５で仲良くなった祥子と、かち合う可能性もあるので、
『来る場合は、事前に連絡してください。』
と、野田は返事をして、ラインを交換した。
『職場に寝泊まりすることも多いから、突然来ても、居ないことが多いので。』
と、付け加えておく。
その日の夜、沙織は考えていた。
自分の生徒の落とし物を、わざわざ郵送で届けてくれた野田という男に、好意を持っていた。
普通なら、空港の職員に、
「落ちてましたよ。」
と、届け出ればいいだけなのに、わざわざ郵送してくれる。
たいした金額ではないものの、郵送代を払い、そして手紙を添えて届けてくれる。
なかなか、真面目な男性だな、と思っていた。
それに、展示会にも、顔を出してくれる。
絵のことを、知ったかぶりもしない。
そんな野田と仲良くなりたいと思うようになっていた。
10代の小娘ではない。
家に行くということは、当然、セックスをする可能性が大きいことぐらいは分かっている。
沙織は、正直、セックスをしたいと思う気持ちもあった。
20代後半、結婚を前提で付き合っていた彼と別れ、それ以降は、誰とも付き合っていない。
もちろん、セックスもしていない。
かれこれ、１０年以上も、男っ気のない生活が続いている。
沙織は27歳の時に、付き合った男性がいた。
もちろん、身体の関係もあった。
沙織は、当然、結婚を視野に入れていたのだが、１年ちょっとで破局してしまった。
それ以降、沙織は仕事に熱中した。
勤務する学校では、厳しい教師として有名になっていた。
30代半ばを過ぎた頃から、無性に性欲が強くなってくるのを実感していた。
ほぼ毎日のようにオナニーをしていたが、それでは我慢できなくなっていたのである。
しかし、教職という立場上、誰彼構わずセックスをする訳にもいかない。
悶々とした日々を過ごしているうちに、40歳の大台に乗ってしまったのである。