先輩に溺れて-2
「え、マジですか…キモイですね…何されたんですか?」
朝美が露骨に嫌そうな顔をして尋ねた。
助かったと思ったのも束の間で「超気持ち悪かった」という言葉に金治は気を落とす。
(そうだよな…俺なんか……)
「後ろの男がね、あたしの脚と脚の間に電車が揺れた拍子にカバンとか押し付けてくるの。脚をぐっと間に入れてきたりとか。すごい不自然だから絶対わざとなの。
テレビでやってたけど、最近そういうの多いみたいだよね」
「真由美先輩みたいな、真面目そうな女性にやるのが余計腹立つなあ。要は声出せなさそうな人にやるわけでしょう?」
「えー、真面目そうに見える?」
金治がその言葉にドキッとする。
(俺は…真面目な先輩がアンナコト、って思ってしまった…)
「…もう、どうしたの?さっきから暗いぞ、佐田くん」
ぽんぽん、と真由美に背中を叩かれた。
その背中から中心に、じわり、と熱を持つ感覚があった。
「せ、先輩は真面目ですよ。いつも俺らのこと気遣ってくれて…」
「ふふ、ありがとう」
また、ぽんぽん、と背中を叩かれた。
「何か、そんな日に男と飲むとか…嫌じゃないですか?」
金治は酔っているのか、自分のもやもやした思いをぶつけているのか、そんなことを聞いた。
真由美が答える前に、朝美が口を開く。
「佐田くん、先輩そんなこと絶対思わないでしょ。だって佐田くんが痴漢したわけじゃないじゃん。世の中の男が全員そうなわけじゃないし」
「ーーうん、佐田くんはそんなことしないでしょ?それとも二人きりになると変わっちゃうのかしら?」
チラッと金治に向けた真由美の視線は、狡猾なものだった。
金治の太ももに、真由美の指先の感覚がすーっと走る。
そんなとき、朝美が席を立った。
「あたし、トイレ行ってきますね」