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安倍川貴菜子の日常
【コメディ 恋愛小説】

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安倍川貴菜子の日常(1)-6

「普段の日は君達と同じで普通に世間で働いたりして日常生活を送っているよ。ただ、サンタの仕事は日常生活の合間にしてるから12月になるとすごく忙しくなるね」
「えっ!?じゃあ、お爺さんも普段は街を普通に歩いていたりするんですか」
「それはもちろんさ。サンタだって人間なんだから仕事もすれば遊びもする。現にこうして私がお嬢さんの目の前にいるだろう」
老人は愉快そうに笑いながら立派な白い髭を手で擦っていると、老人の後ろから若い金髪の女性が老人に声を掛けてきた。
「幸一郎様、ここにいらっしゃってのですね。全く、目を離すとすぐにいなくなってしまうのですから探すのに苦労しましたよ…」
「おお、クリスか。ちょうど良いところに来た。お前さんも座りなさい」
クリスと呼ばれる女性は貴菜子とチョコを見て一礼すると「失礼します」と言い幸一郎様と呼んだ老人の隣の椅子に腰を掛けた。
椅子に座るまでのクリスの動作はとても品が良く、貴菜子は思わず目を奪われてしまっていた。
そして外見は違えど仕事の出来そうなクリスの雰囲気に貴菜子は奈津子の姿を重ねていた。
クリスと奈津子の外見の違いを花に例えるなら、奈津子は薔薇の様な華やかさをイメージさせるのに対しクリスは百合の清楚なイメージを感じさせるのだった。
「この娘はクリスといって私のトナカイなんですよ。クリス、こちらは貴菜子さんと使い魔のチョコちゃんだよ」
「初めまして、貴菜子さん、チョコさん。私は人の姿をしていますが幸一郎様が仰られたとおりトナカイなんです」
凛とした表情で話すクリスをボーッと見惚れていた貴菜子をよそにチョコはテーブルの上をぴょこぴょこ歩き、クリスの前でお辞儀をした。
「クリスさん、よろしくでし」
「こちらこそ、チョコさん」
クリスとチョコの外見は全然違うが使い魔同士だからこそなのか通じるところがあるらしくお互いに顔を見ると微笑み合い楽しそうに話し始めたのだった。
その間、貴菜子は幸一郎から日頃の話やサンタの仕事の話等を聞いていたが、ふと疑問に思う事があったので聞いてみた。
「そう言えば、サンタの話って秘密なんですよね。私に話しちゃって良いんですか?」
すると幸一郎はにこやかに腕を組みながら答えた。
「普通の人に話をするのはまずいけど、貴菜子ちゃんはチョコちゃんと一緒にいる時点で普通の人と違って私達寄りの人と言って差し支えないから平気じゃよ」
幸一郎の貴菜子に対する認識に驚きを隠せない貴菜子は「そうなんですかぁ」と気の抜けた返事をしたのだった。
そして元気に表情をころころと変える貴菜子を見て楽しそうな幸一郎だったが、急にため息を一つ吐くとぽつりと呟いた。
「やはり子供というのは楽しそうに笑っているのが一番だな…」
この一言がとても気になった貴菜子が幸一郎を心配そうに見つめているのに気付いた幸一郎は静かに自分の心の引っ掛かりを話し始めた。
それは、幸一郎の孫である護の事だった。幸一郎は護の名前は言わなかったが、今まで護が体験してきた両親の死の事やサンタの仕事を引き継いだ事、そして護の感情が乏しくなってきた事を貴菜子に話したのだった。
「ううっ……。それって可哀相ですよぉ〜グスッ…」
貴菜子はハンカチを手に泣きながら未を乗り出し幸一郎に訴えた。
「お爺さん、私に何か手伝える事ってありませんか!」
両手に力を込め身を乗り出し訴える貴菜子に幸一郎は少し考える素振りを見せ暫し考えた後、何か決心をしたらしく自分の孫の名前を貴菜子に教えるのだが、その名前を聞いた貴菜子は聞き覚えのある名前に驚き動揺を隠せない様子だった。
「そ、その人って私のクラスメイトですよ…」
「おおっ、そうじゃったか。それなら話は早い。これから護の事を頼みます貴菜子ちゃん。あと、これは私からのお礼じゃよ」
そう言うと幸一郎は貴菜子の手を取り、指にはめている指輪に手を翳し何か呪文の様な言葉を小さな声で唱えると指輪が暖かな光を放ち始め暫くするとその光は収まったのだった。


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