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ジェットコースター。
【大人 恋愛小説】

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ジェットコースター。-1

どきどきする鼓動を押さえ、恋人の手をギュッと握る。
柵のほんの5メーター先では鉄のレールの上を10人ほどの人が高速で駆け抜けていた。
「いやぁ怖そうだね」
恋人がいつもの誠実そうな声で言った。「そうね。確かに」と私も言う。
そう、たしかに怖そうだと思う。
時速100キロ近くで走って回ってくぐり抜けて、足の一本や二本もげてもしかたないぐらい。

けれど私たちは確実に元気な姿で降りられる。昔よくあった、点検不慮のコースターで一回転の途中で止まってしまう不幸な人々じゃないのだ。と、大人の自信をふりまわす。

順番が近づく。
次の前から五番目あたりに乗れそうだった。

わたしはワザと少しひねた顔をした。すぐ気がついた優しい恋人はすべらかな手でギュッとにぎってくれた。
「大丈夫だよ。毎年乗ってるじゃない。」
リリリリィ……!!
大きな発射合図のベル音と共に目の前のコースターが出発した。ガクンガクンとなにかをたくらむように上っていく音が聞こえる。
わーだとかきゃーだとか、騒がしいこえまできちんと。


私達がまだ高校生で、付き合ったばかりの初めてお誕生日、ふっと、「これから毎年後楽園に来よう」という約束をした。
それから12年、私達は律儀に毎年々々後楽園に来ている。12年の間、後楽園は名前を変え、彼は二度浮気をした。
私は祖父を亡くした。
けれどお互いこの日握る手だけは変わらない。

昔よりもスマートな動作でコースターが帰ってきた。
乗っていた人たちはみな興奮した面もちだったけれど、コースターを降りて相方と手を取り合った途端笑顔がこぼれていた。

「ほら早く。」
気がつくと私達の乗車が始まっていた。左腕を引っ張られてあわてて着席をする。
上から降りてくる窮屈で檻のような安全バーをしっかりと下ろした。
係のお兄ちゃんたちが点検がてら説明をする。


『絶対に手をはなさないでください』


リリリリィ…!!
けたたましい音と一緒にコースターは上昇し始めた。
ガタンガタンガタンガタン…。
周りを見渡せば東京ドームやら都心やらのネオンがとてもきれいだ。
真っ暗闇に光る一つ一つがまるで星のようで。
ガタンガタンガタンガタン……。
夜になってぐんと涼しくなってきた風が心地いい。
急に恋人が左手をつかんできた。
ガタンガタンガタンガン………。
あせですべる指と指を絡ませる。
あんまりにも強いので横を見ると、やっぱり目があった。
「お誕生日おめでとう。」

頂上に達した幸福感のかわりに私も強く手を握った。


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