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形姿(なりすがた)
【SM 官能小説】

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形姿(なりすがた)-8

床の上で悶える男の腹部に、腿肌に、そして性器に振り降ろした鞭の先に、わたしは彼の快楽のかたちを感じた。見えない彼の欲望のかたちを。その姿は、逆にわたしをどんどん空っぽにしていった。彼は自らの快楽のためだけにわたしという女を利用しているだけ。そう思ったとき、わたしは自分のかたちの中に空洞を感じ、空洞は薄いガラスの殻となって脆く砕けそうだった。

崩れるように仰向けになった彼の喘ぐ裸体の中で性器だけが異物のように肥大化し、そそり立ち、涎のように透明の先汁で濡れそぼっていた。わたしは彼に命じられたとおり、彼の性器をハイヒールの爪先でいじりまわした。彼はとても悦びに浸った嗚咽を洩らし、身をくねらせた。肉幹と珠玉にハイヒールの尖った踵が突き刺さり、肉が惨めにゆがんだ。そして肉幹が爪先の下で撥ねるように伸び上がり、下半身が小刻みに震えたとき、彼は夥しい白濁液を放った。その姿は彼の端正な顔にとても似合っていた。それが彼のかたちだとわたしは思った。

その下着を脱いで、ぼくの口に押し込んで……。潤んだ眼をした彼は弱々しく言った。
わたしは、すでに冷酷な女になりきっていた。いや、男になぞられるような自分の冷酷なかたちを感じていたのだった。わたしは脱ぎ捨てた湿ったパンティを小さく丸めると、彼の開いた唇の中に冷ややかにに押し込んだ。わたしの体液と匂いを求めるように彼のいやらしく薔薇色に染まった唇が小刻みに震え、わたしの痕が染みついた下着を噛みしめるように顎がうごめいている。酔ったような潤んだ目をした彼の性器はふたたび堅さを取り戻していた。
そして唾液でしっとりと濡れた下着が唇から零れたとき、彼は呻くようにつぶやいた。
き、きみの聖水が欲しい……。
わたしは、最初、セイスイという言葉がわからなかった。立ちあがったわたしの足元で、彼が唇を開き、水面で息を吸う魚のようにぱくぱく唇を尖らせた。その唇の蠢く様子がわたしの割れ目をなぞり、尿意をそそったとき、わたしはセイスイの意味を理解した。
開いた脚のあいだに、彼の顔がとても近く見えた。床に仰向けに横たわった彼の視線が、内腿から股間に忍び込んでくる。勃起している目の前の肉の性器より、もっと性器らしい彼のかたちを含んだ肉惑的な瞳と唇。わたしはじっと股間の真下にある彼の顔を見つめ続けていた。
はっ、早く欲しい……そんなに焦らさないでくれ……。
か細く弱々しい、憐れな声だった。そして、わたしが滴らせたセイスイを唇にあふれさせた瞬間、彼は二度目の射精を放ったのだった。

 サワダとつき合って半年ほどたったときだった。いつものように彼との行為を終え、ホテルの前で彼と別れたわたしは、路地裏の小さなバーでひとり飲んでいた。不意に女がわたしの横のスツールに座った。ショートボブの髪型をし、高価なネックレスを身につけた中年の痩せた女だった。マティーニを注文した女はわたしの顔を見ることもなく言った。
 サワダの妻です。
わたしの微かな予感はあたった。女の声は、わたしがどこで何をして、この時間にどうしてここにいるのかをすべてを知っているように響いた。
おそらくサワダよりもひとまわりほど年上らしい女は、濃い口紅をひき、顎の尖った顔をしていた。胸の薄い、細身の身体を凛と伸ばし、目尻の皺を微かに浮き立たせるようにつり上がった目を細め、冷淡で挑むような声には、あきらかにひび割れた嫉妬を含んでいた。
今夜も夫と楽しんできたのかしら。まだ、お若いのに、あなたって変わったご趣味をお持ちのようね。女は、まるでいかがわしいものを見下すようにわたしに言った。
彼から求められたことです、とわたしは言った。
うそ、おっしゃい。夫はそんな変質者じゃないわ。あなたが誘惑したんじゃない……。
愛されていない女の顔と声だった。その女とサワダの関係の希薄さを感じた。たとえ夫婦であろうとも互いの中に潜むものを、互いのかたちを、これっぽっちも知らない関係。わたしはため息をつくほどしらけた。
用件だけを率直に言わせてもらうわ。夫と二度と会わないで欲しいの……と言ったその声は、わたしを罪人のような気持にさせるように冷淡で刺々しく聞こえた。
私は夫を愛しているわ。夫も私を愛しているわ。あなたが夫とどんな関係を持って、どんなかたちになったとしても、私たちのあいだにあなたが入り込んでくるところはないわ。
 からっぽの独りよがりの言葉だった。きっとこの女はサワダに抱かれたことがない……そう思ったとき、わたしはなぜ目の前にいるこの女と、なぜ言葉を交わさなければならないのか、わからなくなっていた。それにしても、やっぱり、かたちなのだ……彼女の言葉にわたしは自分を閉ざすように口を惹き結んだ。
でも、ひと言だけお礼を言わせてもらうわ。夫がどんな人間なのか、私の知らなかったことをあなたがおしえてくれたことに。私は夫を自分のかたちにすることができたわ。私が彼をもっと自分のものにして、夫が私から離れられなくするかたちだわ。
わたしはじっと彼女の声に耳を傾けていた。
女はにっこりと笑って言った。夫には、貞操帯を嵌めたの。私が持っている鍵でないと絶対、解くことができないものだわ。この意味がわかるかしら。夫は私以外の女を求めることはできないの。私だけをもっと愛さなければならないのよ。これってあなたよりわたしが残酷だってことかしら。というより、あなた以上に、夫に対して残酷になれるわたしに目覚めさせてくれたことに感謝するわ。 


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