投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

ふらりと
【ショートショート その他小説】

ふらりとの最初へ ふらりと 0 ふらりと 2 ふらりとの最後へ

ふらりと-1

ふらりと
通勤電車を寝過ごした。
目が覚めた時は、すでに見知らぬ駅に電車は停まっていて、俺は慌てて下車をする。
駅で見たものは、青い空と眩しい太陽。
かいだものは、磯の香り。
聞こえたものは、波の音。
感じたものは、ゆるやかな風。
やかましい都会にいては想像すら出来ない、のどかな雰囲気の駅だった。
今さら急いでも、遅刻に決まっている。そんな子供の言い訳をして、俺は改札へ向かった。
自動改札はなくて、未だに駅員に切符を見せるようなので、通勤用の定期を見せた。乗り越し分の千二百円を、その場で支払う。
そのまま、駅前のクセに閑散としたターミナルもどきをテクテク歩く。
海沿いの町ならではの潮の香り…深呼吸をすると、体の中もその香りで満たされるようだ。
そのままプラプラと、静かだが、何処か活気のある町を足の向くままに散策する。
不意に、携帯電話が流行曲を鳴らす。ディスプレイを確認すると、会社からだ。少し迷ってから、電源を切る。そのまま鞄の底の方に押し込んでやった。
さらに道を歩いて行くと、何やらいい匂いがする。その元を探すと、一軒の小さな惣菜屋さんからだ。
グゥゥゥ
俺の腹が、情けない音で泣く。そういえば、朝飯から何も食べていない。

ここでいいだろう。灯台へ向かう、海に囲まれたコンクリートの道。イメージでは、釣り人が海釣りをしてそうだ。ただ、ここは釣れないのか、たまたまか。今日の来客は俺一人。
縁にどっかりと腰をおろして、足をブラブラさせながら海を眺める。足下のテトラポッドを見て、その大きさにちょっくらビビった。
さてと、そろそろいただくか。
傍らのビニール袋をあさって、さっきの惣菜屋で買った、透明なパックに詰め込まれたアジフライと、何故か一緒に売っていた缶ビールを取り出した。
潮風を受けながら、アジフライにかぶりつく。箸もなく手掴みだが、それが逆にいい。
取れ立てのアジをサクサクに揚げたフライの味が、ジュワリと口の中に広がる。味の余韻が消えないうちに、ビールを流し込んだ。

グビッ

……うめぇ〜。
堅苦しいネクタイを緩めて、シャツのボタンをプチプチと外す。
ゴロッと寝転がり、軽く目を閉じた。
太陽と風と青空と海。それとアジフライにビール。五月病の社員には、これは無敵の組み合わせだ。
「あ〜、明日はめちゃめちゃ怒られるな〜」
終わり


ふらりとの最初へ ふらりと 0 ふらりと 2 ふらりとの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前