張り込み開始-3
朝9時前に交代の捜査官が来て、引き継ぎを済ませると山田が元気を取り戻したらしく笑顔を見せ挨拶して帰っていく。櫻井も笑顔で挨拶を返す。
午前10時を過ぎた頃に、着替え張り込みの捜査官に声を掛け鍵をし外出する。外出時は、中に人が居ても鍵をする決まりだった。
捜査官達は来客の応対はしない。来客が近所の人の場合不審がられるだろう。宅配や集金などでも同様に居留守を使う。
張り込みスペースは、格子状にガラスが入った鍵の無い引き戸を閉めて行うが何かの拍子に見られる恐れも考えて来客対応はしないのだ。
櫻井は、コーヒー豆の買い出し前に寄る場所が有った。電車に乗り都内の大きな繁華街に近い駅で降りると、繁華街から少し離れたちょっと寂れた通りに入る。
この通りに来るのは、7年ぶりだった。少し歩いて横道に入ると目当ての店は有った。櫻井は、
【まだ有ったな、警察の手入れがとっくに入って潰されたかと思った。】
少し以外に思いながら、寂れた漢方薬の看板が掛かる店舗の引き戸を引いて中に入る。引き戸の呼び鈴が鳴る。
店の中は7年前と変わらない。客は、櫻井以外居ない。奥から小柄な男が出て来た、初老の口の周りに白髭を生やし頭髪も真っ白だ。櫻井は、
『久しぶりだな、リーさん。』
と呼び掛けると初老の男は、
『誰かな、会った事あるかな？』
と判らない様だ。櫻井は、
『当時は、禿げかかっていたが髪が有った。』
と笑いながら言う。リーは、櫻井の顔をじっと見つめ頷く、
『あんた、出て来たのか？早いな。』
と櫻井が判った様だ。櫻井は、
『模範囚だからな。』
と笑う。続けて、
『欲しい物が有るんだがな。』
と言うとリーは、
『次、懲役喰らうと長いぞ。』
と警告する。櫻井は、
『前回もアンタには迷惑は掛けちゃいない。』
と返す。リーは、少し考える様に櫻井の顔を見て、
『こっちに来な。』
と奥に行きながら付いて来る様に手を振った。
リーの店を出ると、繁華街の方に戻りある店に入ると数点買い物をした。その後、また電車に乗り行き付けのコーヒー豆専門店で捜査官達の事を考えコーヒー豆を多めに買った。
『余り保存が長くなりますと、味が落ちますが。』
と専門店の店員が心配する。櫻井は笑いながら、
『今、所用で来客が多いんですよ。』
と返すと店員が笑顔で、
『失礼しました。』
とおじぎする。櫻井は、
『いえいえ、ありがとうございます。』
と返し店を出る。山田が好きな銘柄を多めに買った。
【明日は、篠山悠子にも御馳走しょう。】
と櫻井はニヤリとした。