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ある女教師の受難
【教師 官能小説】

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尊大な男-1

 日差しが厳しさを増し、本格的な夏が訪れようとしている。夏休みを間近に控えた生徒たちは皆どことなく浮足立ち、はしゃぎ合う姿がそこかしこに見られる。午前の授業を終え職員室へと戻るユリは眩しい思いでその光景を眺め、無意識のうちに小さな溜息をついた。かつてはユリも彼らのように無邪気で、未来は希望に満ちていると信じて疑わなかったものだが――。

 職員室へ入ると隣席の教師がユリに声を掛けてきた。
「ユリ先生、校長先生がお呼びですよ」
 嫌な予感がしてユリの胸がざわつく。校長直々に呼び出される理由など一つしか思い当たらないからだ。
 悠司の一件がついに知られてしまったのだろうか。もしそうなのだとしたら自分は一体どうすべきなのか。教え子をなんとか救うことが出来るのだろうか……。
「……どうしました?」
「あっ、すみません、分かりました。ありがとうございます」
 浮かない顔のユリに、同僚は同情的な笑みを見せた。

*****

 ユリは校長の人となりがあまり好きではない。むしろ、はっきり言ってしまえば嫌いなタイプだ。権威主義の俗物で、大物を気取った尊大な態度はとても組織のトップに相応しい人物とは思えないのだ。説教好きで話がくどくどと長いため生徒だけでなく教師達にも嫌われているのだが、本人はそんなことに気付きもしない。
 悪い予感が思い過ごしであることを祈りながら、ユリは校長室のドアを開けた。
「失礼します……お呼びでしょうか、校長先生」
「ああ、ユリ先生。中に入りなさい」
 校長は椅子の背もたれに背中を深く預けてふんぞり返っている。いつもこの調子だ。
「はい……」
 緊張による息苦しさを感じながら、ユリは神妙な顔で机の前に立った。どうすればいいのか考えがまとまらず、組んだ手のひらにじわりと汗が浮かぶ。
 校長は含みのある目でユリをじっと見ながら、机の上の茶封筒をユリに差し出した。
「ユリ先生、こんな物が送られて来たんですがね……何なんですかこれは?」
 封筒の宛名は校長の個人名になっており、親展と書かれている。差出人は表記されていなかった。
 ユリは戸惑いの表情で校長を見返したが、校長は何も言わない。自分で中を確かめてみろということなのだろう。
 ためらいながら封筒の中に指を伸ばすと、指先に少し硬い紙の感触と厚みを感じて、ユリはそれが何枚かの写真であることに気付く。わざわざ校長宛に、それも親展で送られてきているのだ、何か悪いものが写っているだろうことは容易に想像出来た。
 恐る恐る写真の束を引き出すとゆっくりと女の顔が現れる。誰かの顔写真のようだ。そして次の瞬間、ユリは思わず息を飲んだ。頭が混乱し、ショックのあまり写真を取り落としそうになるのをどうにか堪える。そこに写っているのは、涙を浮かべながら男性器を咥えているユリ自身だった。
 それは高岡に再会したあの夜に撮られたものに違いなかった。ただの趣味だと、悪用などしないと高岡は言っていたはずだ。信用していたわけではもちろんないが、どうかその言葉が本当であるようにと僅かな期待を持っていた。紳士の仮面の下に、あの男はこれほどの悪意を隠していたというのか――。
「いやはや、困ったもんだ。一体どういうことなんですかね? なぜこんな写真が送られて来るんですか。ユリ先生の私生活に問題があるんじゃありませんか? まったく、学校にこんなものを送りつけるとは迷惑な話だ」
 校長が大きなため息をつく。恥ずかしさのあまり顔が耳まで真っ赤に染まっていくのがわかる。
「こ、こんなもの、知りません……! これは私ではありません……!」
 つっかえながらもユリは否定した。我ながら苦しい嘘だと思うが他にどうしようもない。
「嘘はいけませんな。どれどれ……ううむ、私には紛れもなくユリ先生のように見えますがねぇ……」
 校長がユリの手から写真を取り上げ、食い入るように見つめる。うっすらと下卑た笑みさえ浮かべて。
「か……返して下さい……!」
 恥ずかしい写真をまじまじと見られて思わず口走り、ユリはハッとして口を噤んだ。これでは自白したも同然だ。
「返して、ということは、この写真の女性はユリ先生だと認めるんですね?」
 そんな質問に答えられるはずもなく、ただ黙って俯くユリの目が潤む。
「答えられないのも無理はありませんな。こんな卑猥な写真ではねぇ……。フフ、まあいいでしょう。幸いにもこの写真は私しか見ていません。だから今回は騒ぎにならずに済んだが、またこのようなことがないとも限らない。悪質な嫌がらせの重要な証拠として、これは私が保管させてもらいますよ」
 ユリが口を挟む隙もなく、校長はそそくさと封筒を抽斗にしまい鍵を掛ける。てっきり返してもらえるものだと思っていたのに、あの恥ずかしい写真は校長の手中に収まってしまった。よりにもよって、嫌いな人間の手の中に――。
「それにしても、まったくけしからん。私生活が乱れているからこんなことになるんですよ。先生には直々に指導が必要なようだ。教師の問題は学校の問題だ、私には監督責任がある。ユリ先生、ちょっとこっちへ来なさい」
「……はい……」
 おずおずと机の脇に立つと、校長は椅子ごと体を引き、指先で机をトントンと叩いた。
「さあ、ここに座りなさい」
「え……?」
「聞こえないのかね、座りなさいと言ったんだ」
 信じがたいことに、校長はユリに机の上に腰掛けろと言っているのだ。


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