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水脈
【SM 官能小説】

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水脈-5

――― きみは、いつも自分を否定し、肯定している……自分の孤独のために。

彼の声とアケミの心が絡むように渦を巻き始める。街は漆黒に塗り込められ、目を凝らしても見えなくなる。
K…の手によってアケミの衣服が剥がれ、スリップの肩紐がずり落ちる。これまで何度なく、彼に脱がされてきたのに、体に触れる彼の指は、毎回のように違っていた。指先に含む体温も、血流の流れも、湿り気も、指使いも。そして、心を沸々と目覚めさせ、淫蕩にほぐすように気だるく潜んでくる彼の肉体の気配も。
彼は全裸にして立たせたアケミの肌を恥辱に晒すように隅々まで指でなぞる。肩の線も、腕も、指先も、乳房の輪郭も、乳首の縁も。そして、腹部に撫で下がり、陰毛をふわりとかすめ、堅く締め合わせた腿のあいだに手をすべらせる。彼の陰鬱な手は、まるで彼女を覆った切ない薄皮をはぐように、ゆっくりと時間をかけて這いまわる。彼は、裸になったアケミの心と肉体をもっと裸にするすべを知り尽くしていた。
そして、K…は取り出した革枷をアケミが胸の前に差し出した手首に嵌める。彼女だけのためにある革枷は、硬く、冷たく、手首に吸いつく。それはまるで彼の身体の一部のようだった。
愛され方を忘れてしまったアケミにとって、《そうされること》は、自分の孤独の記憶をたどることのように感じた。
天井から垂れ下がった鎖で革枷を嵌められた手首を吊り上げられ、反り上がった足指がすねるように床を探り、肢体は不安定に伸び切る。ふわりと宙に浮いた肉体は拘束されているのになぜか自由になる。彼女の中にわだかまっていた、よくわからない肉体の感覚と多くの混沌とした気持ちがひとつになって彼に向かう。

K…が鞄に手を入れた瞬間からアケミは従順になる。彼が手にしたのは、蛇がとぐろを巻いたようにしなやかな黒い鞭だった。鈍色の握り柄には彼の掌の汗が染み込み、編まれた皮にアケミの体液だけを吸い込んでいくことを予感させる鞭。そしてふたりだけのために存在する鞭……。
彼は床に鞭を叩きつけ、アケミのまわりをゆっくりと立ちまわった。それが彼の欲望の示し方だった。すでにアケミの体がその鞭の音を欲しがっていた。肉体の輪郭を描く突起も窪みも、そして心に刻まれた孤独の襞も。

彼とのあいだに漂う空気の密度がしだいに濃くなっていく。次の瞬間、鞭が空を切った。風が微かに啼くような音がした。

ビシッ……
背中に鞭が叩きつけられる。体が弓なりにたわみ、のけ反る。鋭い肌の痛みはアケミの孤独を癒すように抱きしめる。

ビシッ…… ビシッ……
尻の肉がゆがみ、乳房が喘いだ。鞭がしなる音は、どれ一つとして同じ音ではなかった。ときに透明で光沢を含み、ときに重く濁り、彼女の肉肌に振り降ろされた。鞭は彼女の軀(からだ)に漂う孤独の気配と、孤独の水脈をすくい上げた。

ビシッ…………ッ、ビシッ、ビシシッ……
 
鞭は適度な時間の間隔を保ちながら振り降ろされた。まるでアケミに鞭の痛みを十分に知らしめるように。
彼女の肉体のどの部分も見逃すことなく、あらゆるところに容赦なく伸びてくる鞭……。腋窩の窪み、背筋の溝、脇腹のへこみ、尻の切れ目、腿の内側、そしてふっさりとした陰毛に埋もれた地肌……。痛みにもがけば、もがくほど肉体はゆるんできた。まるで性器の奥につかんだK…のペニスを地の底に手放してしまうように。

K…が身につけた細い紐のような黒いブリーフの中のものが肥大化し、堅くなり、彫の深い輪郭を露わにしている。彼はアケミを汚すことに清爽(せいそう)な欲望を感じているに違いなかった。そして、彼の欲望は、アケミを抱いたどんな男たちよりも完璧に彼女の孤独を癒した。
アケミは、ふと気がついた……無責任に従順すぎる孤独をいだいた自分こそが、自分自身でありえる時間だということに。それは夫と結婚し、夫を失ったときも同じだった。


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