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おりん 【R-15】
【歴史 その他小説】

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おりん-4

 ……お役人さんがおりんちゃんをしょっ引かれるおつもりがないなら、もう少しだけお話ししやしょう……。
 おりんちゃんのおふくろさんってのは何時から正吉の小屋に住みついたのかも誰も知らなかったんです、気が付いたら正吉と一緒に暮らしてたってわけでしてね……。
 奇麗な人でしたよ、あっしみたいな年寄りが見てもどきっとするくらいにね……でもね、やっぱり目が違ってました、おりんちゃんよりもっと深い井戸みたいでしたよ、それでね、やっぱりあの人の周りだけ空気が冷たい……もっとも子供のおりんちゃんと違ってそんなところもひっくるめてえらくいい女に見えましたがね……へへへ。
 あの辺りには真っ白な蛇が棲み付いていたんですよ、いえ、あっしは見た事はねぇんですがね、見たって人は幾人も居ますから本当にいたんでしょうな、でもその白蛇をね、あの人が正吉と暮らし始めてからは見なくなった……そう言うんですな、まあ、死んじまったのかもしれないし何処かへ行っちまったのかも知れない、ただ姿を見られてないだけなのかも知れませんしね、あんまり奇麗な人だったんでやっかみ半分でそんなことを言うのかもしれませんしね、そこんところはわかりやせん。
 でも、あの人ばかりはねぇ……本当は人間じゃなかったんだ、なんて聞くと、もしかしたらそうだったのかも知れねぇな……って思ったこともありやした……あっしは化物だの妖怪だのってのは信じねぇ口なんですがね、取り上げ婆さんからおりんちゃんの痣の頃を聞いた時にはさすがにちらとそう思いやしたよ……。
 …………おふくろさんの名前ですかい?それがですね、誰も知らなかったんです、あの人が亡くなった時に焼き場に早桶を担いで行った連中が帰って来てこの店で一杯やりながら話をしてましてね、その時誰かが言ったんですわ。
 『そういやぁあの人の名前を俺は知らねぇんだ、誰か教えてくんねぇ』ってね、そうしたら……そうしたら誰も知らなかったんですな、何処から来たのかもわからねぇ、それどころか声を聞いたことのある者もいなかったんですよ、あの人が正吉の小屋に住み着いてから亡くなるまで二年足らずでしたがね、それでも名前もわからねぇ、声も聞いたこともねぇってのはねぇ……。
 へへへ、お役人さんもあっしと同じ風に考えてるんじゃないですかい? 盗人と庄屋の息子がどんな風に死んだのか、何に首を絞められたのか、おりんちゃんのおふくろさんは何者だったのか……そんな怪談じみた話、帳面には書けねぇでしょうし、書いたところで信じちゃ貰えないでしょうがね……おふくろさんは自分の命が長くないのを知ってておりんちゃんに残して行ったものかもしれませんねぇ……その痣ってものを……。
 お役人様もおりんちゃんの痣の事はご存知なんでございましょう? お調べをなさったわけでございますからな……。
 実を申しますとな、あっしも見たんでございますよ、その痣ってやつをね。
 おりんちゃんを預かってたってお話しましたな……その時のことでございますよ。
 いえ、妙な気持ちでしたこっちゃございやせん、ただ、明日は迎えがやって来るって前の晩に湯に入れてやろうと思いましてな、何故って朝になれば長旅になるじゃありやせんか。
 でも湯屋に連れて行くわけにも行きませんや、痣のことは知ってたわけですからな、そんなものを人に見せるわけには行きやせんでしょう? 湯を沸かしてたらいに張って、体を流してやったんでございますよ……ええ、確かに蛇のようでございましたよ、尻尾の先は丁度おりんちゃんの女陰でしてな、まるでそこから這い出して来たかのように見えやした、そこから右の腰、左の脇腹と巻きついて、頭は丁度左の乳のところ、まるでチロチロと舐めているようでございやした。
 まあ、八つの子供の体ですよ、乳も膨らんでなけりゃ尻も薄い、腰もくびれちゃいない寸胴でさぁ……でも、そんな小さいうちからでもやっぱり男の子の体とは違ってどことなく柔らかそうなんですな、それにおりんちゃんの肌は真っ白だ、その真っ白な肌に青い蛇が巻きついている様と言ったら……白状しますとな、盗人の気持ちが少しわかりやした、こんなじじいのマラでもぴくりとしやしてな……あわてて目を逸らしやしたよ、そうでもしねぇと思わず抱き着いちまいそうな気がいたしやして……。

 それで、おりんちゃんの新しい奉公先というのは?……はぁ、絹糸問屋のご隠居で……おりんちゃんはその身の回りのお世話を……そのご隠居は……。
 ……そうでございますか、何もかもご存知の上でおりんちゃんを家にお入れになると、そう仰るのでございますな? 大したお方でございますねぇ、あっしもね、おりんちゃんのその痣が無闇に這い出す何ぞとは思っちゃいやせん、三晩でございましたが隣に寝かせていたこともあるくらいでして……でも、庄屋の息子の事もあって尚かつおりんちゃんを家にお入れなさるとは……肝が据わっていらっしゃる、いえ、あっしは大層お優しいお方なんだろうと思いやすよ……。
 
 おりんちゃんのことであっしが知っているのはこれくらいで……もっとも、あっしの話を聞くより前に、お役人様はお心をお決めになっていたように思えますがね……いえ、お答えにならないでもよろしゅうございますよ、あっしは勝手にそう決めておきますんで……。



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