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「……yes」
【初恋 恋愛小説】

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「……yes」-3

「断れ!」
俺がそう言うと綾香は急に真剣な表情になった。
「翔くんだって、いつまでも告白しないつもりじゃないんでしょ? 最近メールしても陽美ちゃんのことばっかりで、翔くん辛そうで……」
実際、綾香の言う通りだった。人生初の恋に、自分がどうすればいいか分からず悩んでいたのだ。それで綾香に相談していたんだけど……こんなに心配してくれてたんだな。
「しょうがねえ……。いいきっかけが出来たと思って諦めてやる」
俺は溜め息をつきながら言った。




それ後は家に帰ったわけだが……全く落ち着くことが出来なかった。何をしていても明日の告白のこと――三田村陽美のことばかり考えていた。

三田村陽美はその名の通り、太陽の様に暖かく優しい女の子だ。体育で俺が膝をすりむいた時に、わざわざ手を引いて保健室まで付き添ってくれて……それで好きになったんだよな。
そして何より妖精の様な可愛い顔をしていて、俺の学年の男子の七割が狙っているという噂だ。

そんな娘……俺には高嶺の花だよな。
今日何十回目かの溜め息をつく。真っ暗な自分の部屋で。俺は四角い窓の向こうの星空を眺めながら……ただ溜め息をついていた。


翌日学校に行っても、俺は空を眺めながらずっと溜め息をついていた。もちろん授業なんぞに集中できるはずがない。しかし、こういう日に限ってやたら授業で先生に指される。その度、答えを言えない俺をクラスメイトがケラケラと笑うのだが……はっきり言って今の俺にはそんなことどうでもよかった。まあ、三田村と違うクラスで助かったけど。
時計の針が進むにつれ、俺の鼓動はどんどん大きくなっていく。そしてついにホームルームの時間になった。

「やばい、緊張してる」

俺は誰にも聞こえないくらい小声で呟いた。
 担任が何か話をしているがなにも聞こえない。自分の心臓だけがドクドクとうるさく音を立て動いていた。
俺は机に突っ伏して目を閉じる。そしてホームルームが早く終わる様に、ただ祈っていた。そしてホームルームがずっと終わらない様にと、祈っていた。



「翔くん!」
急に声をかけられ、体を硬直させながら顔をあげる。俺の目には綾香ただ一人が写った。周りを見渡しても誰もいない。いつの間にかホームルームが終わっていたようだ。
「翔くん、陽美ちゃん呼んできていい?」
「あ、ああ、ちょっと待って……」
大きく一度深呼吸をする。胸がキリキリと痛む。
「よし、呼んで来てくれ!」
全然落ち着ちついてないけどね。
綾香が教室の外へ出ていくのを視界の隅で確認した。

そして暫くすると、教室の扉が開いた。そちらに目を向けると、そこにいた少女――三田村陽美と目が合った。
三田村がゆっくり近付いてくる。三田村のコロンの香りが鼻をくすぐり、頭の中が真っ白になった。三田村が口を開く。
「碓氷くん、話って何?」





気が付くと俺は椅子に座り窓の外を眺めていた。
教室内は俺一人だけ。ああ、そうだ。振られたんだ、俺。三田村に告白して。なんか、今日のことが全部夢だったみたいだ。
なんとなく覚えているのは、ごめんなさいと悲しそうな顔で言った三田村と、そして駆け足で教室から出ていった後ろ姿だけだった。


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