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「……yes」
【初恋 恋愛小説】

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「……yes」-1

放課後の教室。男子生徒が一人、椅子に座ったまま窓の外を眺めていた。

オレンジ色の太陽に照らされた空は赤。その色は雲をも少しばかり染めあげ、灰と赤の不思議なコントラストを見せた。しかし空は永遠に赤いわけじゃない。遠くの空から紫、そして夜の青が少しずつ迫って来ている。


空を眺めるのが好きだ。空は色々な顔を見せてくれる。快晴という笑った顔、曇りという不機嫌な顔、雨という悲しい泣き顔……。
「へえー、じゃあ今はどんな顔なの?」
そんな空を眺めるのが、大好きだ。
「おーい、翔くん? 聞いてる? 無視すんなー」
そう、そんな空を……。

そこで俺の思考は強制終了。後頭部に稲妻のように激しい衝撃が走ったからだ。
「いってぇな! 綾香、お前何しやがる!」
俺はそう言いながら振り向く。そこにはゴルフのスイング直後のような格好で静止した、幼馴染みの菜月綾香がいた。手にはゴルフクラブの代わりに学校指定の鞄。きっと俺の後頭部を打ち抜いたものに間違いない。
「あれ、生きてたの? いくら呼び掛けても返事がないからてっきり……」
綾香は口元をわずかに歪め、涼しい顔で言った。
「この暴力女め! ちょっと無視したくらいで鞄で後頭部をフルスイングしなくてもいいだろ」
 俺は立ち上がり綾香を見下ろした。

この暴力女は不本意ながら、俺の幼馴染みの菜月綾香。明るく活発な性格で、顔は俺からみてもかなり可愛いと思う。だがこの様な狂暴な面があるせいか、年齢=彼氏いない歴という不名誉な記録を更新し続けてい……。
と、そこでまた俺の思考は急停止。今度は鼻に衝撃。鞄が顔面に直撃したのだ。
「悪かったわね、年齢=彼氏いない歴で! そういう翔君だって、年齢=彼女いない歴じゃん!」
あまりの痛みに顔を押さえる。
「あ、綾香……。なぜ俺の心の声を?」
「さっきっから、ずっと声に出てるよ? まあ、可愛いって言ってくれたところは評価しましょう」
指の隙間から覗くと、綾香は頬に右手を当て、なぜか幸せそうな笑顔を浮かべていた。

俺は夕日に照らされたその笑顔に、不覚にもドキッとしてしまった。濃い茶色の短いボーイッシュな髪も、今は栗色にキラキラと輝いている。

マジで可愛いな……。

「ん? どうかした?」
「い、いや、なんでもない」
危ない。今のは声にでていなかったみたいだ。俺の悪い癖だな。思ったことをいつのまにか口に出しているのは。
「ところでなんの用だよ?」
「昨日、メールしたことよ。明日の放課後、この教室に陽美ちゃん呼び出しといたから。名付けて『碓氷翔の初告白大作戦』!」
いやいやいや。何をおっしゃってるんですか、綾香さん?
 三田村陽美はたしかに俺の意中の人だけれども。呼び出したって何?
俺は慌てて携帯を取り出し、受信ボックスをクリック。昨日のメールはと……これだよな?
 俺は綾香と携帯の画面を交互に見た。
「いや、全然俺が告白する意味がわからないんですけど? むしろ、告白するって書いたの、お前じゃん?」
「だから私が告白するために翔くんが告白するの!」 全く意味が分からなかった。こいつの言い分を理解するためにもう一度受信メールを確認する。


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