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エロティック・ショート・ストーリーズ
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純白の蝶は羽ばたいて(美少女、処女)-6

        5

「この頃なんかヘンですよ」
 サブリーダーの越早祥治に言われるまでもなく、達也にも分かっていた。
「妙に気持ちがフワフワと抜けているなと思っていたら、先週半ばぐらいからはズーンと沈んでるし」
 祥治は寂しそうな目で達也の方を見ている。
「すまん、おまえの言うとおりだ。でも、仕事は今まで通りにちゃんと……」
「出来てないから言ってるんですよ。らしくないっていうか」
 スマホにかけても出ない。住所は知らない。学校の前で待ち伏せは不審者だ。そんな手詰まりな状況の中、チーム員には悪いと思いつつも、どうしても悠香のことが頭から離れない。
「ねえ、達也さん。ぬいぐるみのクマ代わりに話を聞くことぐらい出来ますよ、僕にも」
 祥治、と呟いて、達也は顔を上げ、ポツリポツリ、と悠香とのいきさつを話し始めた。偶然出会い、交際が始まったものの、彼女の母親のことでケンカのような状態になり……。
「なるほど。それは難しい問題ですね」
 聞き終えた祥治は、バカにしたり無関係を装ったりせずに、真っ直ぐに達也の目を見つめた。
「僕にも覚えがあるんですが、特に十代の中頃って、大人の不誠実が許せないじゃないですか。ましてや母親の不倫だなんて、十七歳の少女の心が処理しきれる問題じゃないですよ」
「そうなんだ。だから慰めようと……」
 祥治はゆっくりと首を振った。
「慰めようとなんかするから拒否されるんですよ。母親がそうであるように、あなたも大人の一員なんですよ、彼女にとっては。大人が一緒になって自分を誑(たぶら)かそうとしている。そんな風に感じてるんじゃないですか」
「そんなつもりは……」
 分かってますよ、と言いながら、祥治は達也の肩に手を置いた。
「達也さん。すごく長い付き合いだとは言えないかもしれないけど、あなたのことはある程度分かっているつもりですよ。悠香さんにだってきっと達也さんの人柄は伝わっているはずです。だから、今は反発していても、必ず戻ってきますよ。彼女だって、本当は達也さんに会いたいんじゃないですか」
「そうかもしれないけど……」
 ふうっ、と息をついて、祥治は言った。
「まずはなんとかしてコンタクトを取りましょうよ。そうでなければ始まらない」
「余計に反発されないだろうか……」
「このまま終わってもいいんですかっ」
 いつになく強い調子の祥治に驚いたように、達也は目を見開いた。
「困るんですよ、僕が。シャキっとしてくれないと。あなたがそんな調子じゃ、仕事にならないんです。達也さんの下に、何人ぶら下がってると思ってるんですか。ウジウジしてないで、ガーンと行って下さいよ、いつものように。だから……」
 だから、なんとしても解決してくれ。そんな目をして手を握る祥治に、達也は決意の目を向けた。祥治はそれを全力で受け止めた。
「ねえ、達也さん。二人が出会ったのって、どこでしたっけ?」

 祥治のアドヴァイスに従ってゲームセンターに来てみた達也だが、そう都合良く彼女がいるはずもなく。あてもなく店内をだらだら歩いていると、背後から、ドン、と柔らかい衝撃を受けた。
「……達也さん。この前のこと、許したわけじゃありませんけど」
 この世に切れない物がない程の鋭い目をして、悠香は彼を睨み付けた。そして不意に顔を歪め、呟いた。
「会いたかった……」
 溢れる涙は淀みなく瞳を揺らし、膨らませた頬を伝った。達也は、無言で彼女を抱きしめ、髪を撫でた。
「私、大人にならなきゃ。そうなんでしょ? だから、大人のことをもっと教えて」
「大人になんかならなくったって……」
 悠香は顔を上げた。
「ダメ。それじゃあ、いつかあなたについて行けなくなってしまう」
 達也は悠香から体を離し、どこまでも深く透き通ったその瞳を、今度こそ真っ直ぐに見つめた。涙でぐしゃぐしゃになってなお美しい彼女に、小さな笑顔が浮かぶ。
「ねえ、あれやろうよ、悠香ちゃん」
 視線の先には、初めて会った日に二人でプレイした音楽ゲームがあった。
 僅差で勝利した達也は、悠香の手を握り締めて歩き始めた。


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