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エロティック・ショート・ストーリーズ
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純白の蝶は羽ばたいて(美少女、処女)-3

        3

 静かなところでお話ししませんか。そう誘ってみると、彼女は案外気軽に応じてくれた。ゲームセンターは賑やかすぎるから、というのが誘った理由だが、本当はゲームセンターの中で話したい話題ではなかったのだ。
「ゲーム制作の何を担当したいんですか」
 藍川悠香(あいかわゆうか)、と名乗った少女は、少しはにかみながら、音楽、と答えた。
「ゲームの音楽が作りたいんです。どうやったら作曲家になれますか」
 どこまでも透明な瞳で真っ直ぐに見つめられた達也は、厚手のマグカップに入ったコーヒーを一口すすってしばし躊躇ったのち、三つの選択肢を示した。作品を募集しているメーカーへの応募、就活、そしてゲームスクールだ。
「いちばん手っ取り早くて門戸が広いのは、ゲームスクールへの入学です。作品の募集は、やっていない会社が多いし、就活は、学力その他、総合的な力量が問われるうえに時間がかかる。その点スクールなら入学は簡単で、専門的な分野での実力さえあれば驚くほど短期間で現場の実習に投入されることがあるんです。そして、うまくいけばそのまま入社となります。ただ……」
 達也は言葉を切って唇を噛んだ。悠香が不安そうに眉を寄せた。
「素質がない人にはとても辛い未来が待っています。学費だけ払い続けていつまで経っても現場から声が掛からない。そして、諦めてやめていくんです」
 要するにね、と、達也は迷った末に正直に話すことにした。
 ゲームスクールはメーカー直営だったり、何らかの形でメーカーと繋がっている。メーカーサイドに大きな利点があるからだ。
「正式に入社させちゃった後ではクビにしにくいでしょ? たとえ期待外れだったとしても。その点、スクールで実力と人物をじっくり見極めればハズレを引きにくいし、優れた人材を早期に見つけ、確保することが出来る。つまり、ゲームスクールは、技術を磨き知識を身につける場、というよりも、選別を受ける所、と考えた方が実態に近いかもしれません。夢を持って入学しても、けっきょくはメーカーの都合で翻弄されてしまうのです」
 金箔で装飾されたティーカップを口に運ぶ悠香の表情は固い。それまで想像すらしたことがなかった業界の裏側を垣間見てしまったからだ。しかし、今ひとつ実感としては分かっていないようだ。それはそうだろう。社会の汚いところなど、十七歳の女子高生が知るよしも無い。
「甘い世界ではない、ということですね」
「うーん、甘い、甘くない、っていうか、もっとドライな、資本主義的……」
 言葉に詰まり、オープンカフェの空を見上げた達也が小さく舌打ちした。
「またか、あいつめ」
 同じ方角を見上げた悠香が驚いたように達也の方を見た。
「見えるんですか? あのUFOが」
「UFO? そう呼んでるんですか、あれを。っていうか」
 今度は達也が目を丸くして悠香を見た。
「見えるんですか? あいつが」
 二人は口を半開きにしてしばし見つめ合った。
「驚いたなあ」
「私もですよ」
 彼らの周囲に、「それ」が見える人物はほとんどいないということを確認し合うと、達也はなんだか秘密を共有したような気分になった。親からはあまり他人に話さないようにと言われ続けて育った彼らにとって、「仲間」は貴重だった。
「……まあ、あれについては子供の頃からずっと考えてきたけど答が出ないから、とりあえず放っておきますか」
「ええ、そうですね」
 自然木を活かした厚手のテーブルから、達也はコーヒーマグを、悠香はティーカップをそれぞれ持ち上げて、互いの目を見つめながら一口味わい、元に戻した。
「で、っと。甘いとかなんとか、っていうより、夢は夢のままでいた方がいいかもしれないっていう話ですよ。夢はね、いつかは覚めるんです」
 悠香はあいまいに頷く。十七歳の少女にはまだ早すぎる話なのかもしれない。彼女は少し話の方向性を変えてみた。
「あの、素質があるかどうかはどうやって判断されるんですか」
「ああ、それは」
 簡単ですよ、と達也は笑う。作品で分かる、と。
「何か自分で作曲した物ってあります?」
 唇を一瞬震わせ、頬を染めながら、悠香はバッグからスマホをとりだして操作した。
「……ここに、入ってるんですけど」
 おずおずと差し出されたスマホを受け取り、達也は愛用のイヤホンを接続した。彼は有線の物しか使わない。画面上で選択されている楽曲をスタートさせると、彼の表情はすぐに曇った。祈るような目で見ていた悠香は落胆の色を隠せない。
「ありがとうございました」
 消え入りそうな声で礼を言う悠香にスマホを返しながら、達也は呟いた。
「残念だ」
 悠香が涙を浮かべ、小さく頷いた。
「君には才能がある」
 硬直していた悠香の表情が緩み、続いて不思議そうな顔をした。


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