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ハットトリック? 〜選手入場?〜
【大人 恋愛小説】

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ハットトリック? 〜選手入場?〜-2

「ありがとうございます、手伝ってもらって。」
最後の荷物を運び終わったとき手伝ってくれた女性にお礼を言った。
すると、女性は可笑しそうに笑い出した。
「どうしたの?改まった言い方なんかしちゃって。」
彼女の言葉に僕はまた混乱してしまった。僕はこの女性と知り合いだっただろうか?
今思い出す限りでは目の前の女性の名前は出てこない。
それでも少しうつむき加減で顎に右手を当てて思い出そうとしていると、女性の少し不安げな少し寂しそうな声が聞こえた。
「もしかして、忘れちゃった?」
僕は気まずげに小さく頷く。
「はぁ・・・」
小さくため息をつくとエプロンをはずして僕の目を見ながら自らの名前を名乗り上げた。
「小林 美菜穂(コバヤシ ミナホ)と言います。これからよろしくお願いします。」
「美菜穂さんですか、こちらこそよろし・・・。美菜穂?みなほってもしかして、ミナ!?」
「そうですよ、ミナですよ。」
僕の言葉に満足げに笑って頷く女性、ミナ。
僕がヨーロッパに渡る前に親しくしていた友人の1人だ。
親同士が仲が良かったために、家族で遊びに行ったりするときも一緒だった。
それにしても、10年という歳月の長さを改めて実感する。
僕の記憶の中にあるミナからは今の姿は到底想像がつかない。
「宏が向こうに行っちゃってからいろいろあったんだよ。」
部屋に昔のまま置いてあるベッドに腰掛け言葉を続けた。
「中学を卒業しても一緒に高校に通うんだと思ってたから『ヨーロッパに行く』って言ったときは本当に驚いたんだよ。
宏がいなくなって皆も寂しがってたし。」
10年前。15歳だった僕は高校へは行かず、ヨーロッパにいる叔父を頼りに留学することを決めた。
3部リーグに所属するクラブチームに入団し毎日毎日サッカー漬けだった。
ヨーロッパに渡ってから3年目。チームは2部リーグ昇格を果たした。
そしてなんと僕は、毎年入れ替え戦ギリギリだが1部リーグに所属するクラブチームと契約を結ぶことが出来た。
最終的にはヨーロッパのサッカーファンの人たちにも名前を覚えてもらえることができた。
「でもね、何年か前からたまに宏の名前がスポーツ番組に出るようになって、頑張ってるんだなって。
すごく嬉しかった。」
笑顔で話すミナに僕は少しドキッとしてしまった。
「皆って言えばね、中学の時のクラスメイトだった高志と友里恵が結婚したんだよ。」
「本当に?」
「うん。ウエディングドレス姿の友里恵、綺麗だったなぁ。」
中学の頃の友達の話からミナの高校、大学時代の話。僕のヨーロッパでの話など10年分のお喋りは時間を忘れさせるほど楽しかった。
「宏ー、美菜穂ちゃんー、ご飯よー。」
母の声にふと外を見ると、外は暗くなっていてずいぶんと話し込んでしまっていたことに気づいた。
「いけない、おばさんに夕ご飯の仕度任せっきりにしちゃった。」
ミナは慌ててベッドから立ち上がった。
「また、ご飯食べ終わったらいろいろ話そう?」
「うん、わかった。」
僕は頷くと10年ぶりの家族との食卓へと向かうために部屋を後にした。


こうして僕にとっての長い試合が始まったのだった。
この先にどんなことが待ち受けているのかは、このときの僕には知る由も無かった。

END


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