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夏の悪夢に囚われて
【SM 官能小説】

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陵辱と欲情の夜-3

 ちょうど大学の夏休みが始まったばかりのある日。
 夕刻になってアトリエを訪れたアイに、史規は「しばらくここには来ないでほしい」と告げたのだ。
 クライアントからの要望でヌードモデルが必要になり、明日からそのモデルと共に新しい作品に取りかからなければならないということだった。
「それでね、まあ、集中できる環境が必要なんだよ。アイちゃんが来ても、なんていうか、いままでみたいに相手をしてあげられないし」
 言いにくそうに口ごもりながら話す史規を前に、アイはこれまで味わったことのない苦々しい気持ちが胸の内に広がっていくのを感じていた。
 モデルとなる女性は史規の幼馴染みで、同じ大学に通っていた晴菜さんという女性だった。
 彼女とは、アイも何度か八坂の家で会ったことがある。
 どことなく優等生風で清楚な雰囲気の美人だった。
史規と恋人同士だとか、もうすぐ結婚するのではないかという噂も聞いたことがあった。
 でも、それを信じたことはない。
 だって、おじさまと一番仲良しなのはわたしだもの。
 恋人も結婚も必要ない。
 わたしたちは特別だから。
 ふたりで一緒にお絵描きしたり、おしゃべりしているだけで幸せ。
 これまでアイは本気でそう思っていた。
 それなのに、ここに他の女性が来て裸になるなんて。
 なんだか、ものすごく不潔な感じがする。
 ひどい裏切り行為のようにも思えた。
「なによ、モデルなんていらないじゃない。いままでみたいに、わたしがモデルになってあげるから」
 おじさまは風景画ばかりで、ふだんは人物画なんて描かないくせに。
 どうしてもモデルが必要だったときだって、わたし以外のモデルなんて描く気にならないって言ってたのに。
 どうして、いまさら。
 言葉にならない気持ちが溢れてきて、声が震えた。
 自分が無理を言っているのはよくわかっていたが、どうしても譲ることができない。
 史規はどう説明すればいいのか迷うように目を伏せ、ため息をついた。
「無理だってわかってるだろう、だってヌードモデルだよ? 僕の前で裸になるなんて、そんなのアイちゃんだって嫌だよね?」
「だ、だけど、晴菜さんがここでおじさまと……そっちのほうが、絶対に嫌!」
「ううん、今回の絵の件だけじゃなくて、君とはそろそろふたりきりで会わないようにしたほうがいいと思うんだ。もう知っていると思うけど、晴菜と僕は、ええと、もうすぐ結婚するかもしれないし」
 一番聞きたくなかった情報が、さらりと史規の口から吐き出された。
 神経の糸が切れてしまいそうなほどに張りつめていく。
 嘘よ、そんなの嘘。
「どうして急にそんなこと言うの、わたしのこと嫌いになった?」
「これ以上困らせないでくれよ……僕だってアイちゃんと遊んでいたいけど、いつまでも君の相手ばかりしていられないから、ね?」
 駄々をこねる赤子をあやすような口調が癇に障った。
 もう子供じゃないのに。
 イライラする。
 晴菜さんと結婚なんて、信じてなかったのに。
 モデルだって、どうしてわたしじゃダメなの。
「子供扱いしないで、わたしだってヌードモデルくらいできるよ! 服を脱げばいいだけでしょう? そんなの簡単じゃない」
「簡単って、あ、アイちゃん」
 史規がそれ以上なにか言い出す前に、アイは身に付けていたブラウスのボタンを引きちぎるようにして外した。
 服の隙間から水玉模様の子供っぽい下着がのぞく。
 これまで異性の前で服を脱いだことなど一度もない。
 大好きな史規に下着姿を見られるなんて。
 スタイルにはあまり自信がない。
 同じクラスの女の子たちと比べても、胸もお尻も小さくて女らしさが足りないのは自覚している。
 恥ずかしさで顔が火照る。
 心臓が破裂しそうだった。
 それでも、もうあとには引けない。
 勢いのまま、スカートのファスナーも下げた。
 紺色の布地が輪になって落ちていく。
 すぐ横にある大きな棚のガラス戸に半裸の自分が写っていた。
小さな水玉模様のショーツと同じ柄のブラジャー、それに赤い花飾りのついた夏物のサンダルというちぐはぐな格好。
 史規は目をそらしたまま、アイを見ようともしない。
 自信に満ちた晴菜の笑顔が頭にちらつく。
 彼女はわたしよりずっと綺麗で、すごく大人で。
 このままじゃ、おじさまを盗られちゃう。
 悔しい。
アイは涙目になりながら叫んだ。
「ちゃんとこっち見てよ! これでもわたしじゃダメなの? 晴菜さんのほうがいいの?」
「やめろよ、もうわかった。今夜は送っていくから、とにかく服を着て」
「おじさま、なんにもわかってない! 見てよ、ほら、わたしだってもう大人なんだから!」
 サンダルと肩にひっかかっていたブラウスも放り投げるようにして脱ぎ、思いきってブラジャーのホックも外した。
 ささやかな胸の膨らみがあらわになり、真っ白な乳丘の先だけがうっすらとピンクに染まっているのも丸見えになっている。
 羞恥心は頂点に達していたが、それよりも怒りや悔しさのほうが強かった。
 負けたくない、おじさまはわたしだけのもの。
 一瞬迷ったあとで、最後の一枚となったパンティーも膝下まで押し下げて脚から抜いた。
 史規は驚愕の表情でアイの方を見たまま固まっている。
「あ、アイちゃ……」
「これでわかった? わたし、ヌードモデルくらいできるよ。だから、おじさま」
 明日から来るな、なんて言わないで。
 そう最後まで言い終えるより早く、アイは画材の散らかった床の上に押し倒されていた。


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