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キラめく光
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キラめく光-3

その日、私は要くんよりも早めに帰宅した。ずっと天気が良かったのに、今日は朝から雲行きが怪しかった。天気予報では台風が近づいていると言っていたような気がする。確かに風が強くなってきているようだ。風が耳の横でビュウッっと唸る。
「…ちょっとだけ待っててね」
私はキラにそう言うと、キラのリードを玄関のドアノブに引っ掛け一旦家の中に入った。そして、洗面所からキラ用のタオルを持ってくる。私は散歩から帰ると、このタオルでキラの足を拭くようにしていた。玄関のドアは開け放っていたので、私はタオルを広げたまま外に出ていく。
「キラァー…えっ!?」
そこにはリードだけが垂れていた。その先に繋がれているはずのキラはどこにもいない。
「キラ、どこ?キラ!?キラッ!」
私は胸の中にどぉんと石が落ちた感じがした。息が苦しい。ハァハァと荒くなる。ドックドックと心臓が早くなる。
家の回りをぐるりと一周したが、どこにもキラはいなかった。
リードを引っ掛けていた首輪からキラは抜け出したようだった。これでは、首輪に付けているプレートの意味が無い。プレートには犬の名前、住所、電話番号が書かれている。万が一迷子になった時のためと、私が買ってきたのだが、首輪は今手元にある。これでは誰かが家まで届けてくれるなんてあるわけが無い。
「…キラ…」
私は家を飛び出した。安っぽいサンダルを履いて走った。空を厚い雲が覆いはじめる。まるで私の心だ。不安という名の雲は、私の心を覆い隠していた。


足は自然と川原へと向かう。向こうからロックを連れた要くんが歩いて来るのが見えた。
「光!帰ったんじゃ…」
「要くんっ…キラが…キラが…!!」
要くんは眉をしかめた。
「い、いなくなっちゃったああぁぁぁ…!!」
自分でも驚いた。『いなくなった』…この言葉を口に出した瞬間、体の奥底から絶望にも似た感情が溢れ出て、叫びながら私は崩れた。こんなにボロボロになるなんて、自分でも思わなかった。
「落ち着けっ、光」
「いやああぁぁぁ…、キラアアァァァ…!!」
「落ち着けっっ!!」
要くんは私の肩を掴んで激しく揺すった。私はハッとして、要くんを見る。その隣でロックがワンワン吠えていた。きっと私を落ち着かせようとしていたのだろう。私が正気に戻ると、ロックは輝く黒い瞳で私を心配そうに見上げた。
「探せばいいじゃん、光。俺も手伝うから…!」
「うん、うん…」
要くんは私の腕を引っ張った。ふらつきながらもしっかりと自分の足で立つ。
「じゃあ、俺はもっと向こうを探すから、光はこの辺りを探すんだ。見つけたら光の携帯に電話する!」
「…わかった…」
私が頷くと、要くんはロックを連れて駆け出した。「キラァ、キラァ」と叫びながら。私はしばらく何も考えられず立ち尽くしたままだった。大きな風が通り過ぎて、私は深呼吸した。キラは絶対に見つかる、だってキラは私の光だから…。私はキラ無しじゃ輝けないから…。キラと私は深い絆で結ばれてるから…だから私は絶対捜し出せる。
強く自分に言い聞かせて、私はキラの名前を呼びながら、要くんとは反対方向に走った。


何時間たっただろう。風は強さを増し、雨はバケツを引っ繰り返したように激しく降っている。
「キラァー!キラァー!どこぉー?」
闇の中に私の声は吸い込まれる。もはや自分自身の声も聞き取りずらい。それだけ、雨は大粒で風は唸っていた。
「…キラ、どこ?私はもう、光を失いたくない…」
ここはどこだろう?雨のせいで周りが霞んで見える。いや、雨のせいばかりじゃない。私の目には涙が溢れんばかりに溜まっていた。流れていても、顔はすでにビショビショでわからなかった。私、強くなってなかった…。キラがいないとこんなに弱いんだ…。生きていけない、このまま死んじゃいたい…。私はその場にヘナヘナと座りこんだ。濡れた掌に小石が張りつく。

この砂利って…。


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