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「誰?」
【ホラー その他小説】

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「十円玉」-3

突発的に体が動いた。

左手で黒木さんの腕を押さえ、右手で十円玉を引ったくるように掴んだ。

「何しやがるんだ!」

彼女の口から出たとはとても思えない、低くて太い声。左手で押さえている腕の力も女子のものとはとても思えなかった。

ここで怯んだり躊躇ったりしたら殺される。十円を握ったまま窓ガラスを叩き割り、出来た穴から銅貨を放り投げた。



これで大丈夫だ。
根拠は無いが、確信に近い自信がある。

「あれ? 何で小沢君が此処に居るの?」

彼女は不思議そうな顔をしている。

「香奈美ちゃんとこっくりさんしていたはずなんだけど」

何も覚えていないのだろうか。まあその方がいい。

「ねえ小沢君。手、痛いんだけど」
「あ、ごめん」

あんな事があったからだろう。好きな子の腕を掴んでいても何とも思わない。

「ねえ、黒木さん」
「何?」

腕を摩りながら睨むように俺を見た彼女。
ふと浮かんだ疑問を口にする。

「あの十円ってどこかでひろったの?」
「ううん。香奈美ちゃんが持っていたの」

香奈美ちゃんっていう子は何処で手に入れたのだろう。まあそんな事はどうだっていいか。

「もう八時だし帰ろうか。家まで送っていくよ」
「ホントだ。もうこんな時間。道も暗いしお願いしちゃおっかな」

机の上にまだあった紙を破り捨て、教室を後にする。



校舎から出るところを校務の人に見つかってめちゃくちゃ叱られた。あの十円玉もあれはあれでかなり怖かったんだけど、こっちもめっちゃ恐い。どっちも二度と経験したくない。これからは誰に誘われても早く帰ろう。



「ったく、あのガキ共。こんな時間まで何をやっていたんだか……」

仲良さそうに帰って行く二人を見送りながら、一人毒づく。
最近変な事件が起きているせいで宿直の日が増えた。それなのに給料が上がるわけでもない。そのせいで嫁と喧嘩してるってのに、アイツらは……
こんな時間まで居てたんだから、一発か二発やってたんだろう。まったく最近のガキは……

ぶつぶつ言ってると、ふと足元に落ちている物に目がいった。こんな暗い中なのに、なぜ目についたのだろう。そっと拾い上げてみる。

「こりゃ今夜の分の特別手当だな」

そう言って、ポケットに放り込む。

「さて、見回りでもするかな」


彼が気付いたのも不思議な事ではない。
落ちていた物体が一瞬光を放ったから。
黒ずんでいるにもかかわらず、鈍い光を発したから。

「それにしても宿直の手当が十円玉一個だなんてなあ」



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